自分でできる遺言書の検認手続き【完全ガイド】必要書類・流れ・費用をわかりやすく解説!開封してしまった時の対処法も


「亡くなった父の部屋から、手書きの遺言書が出てきた」



「封がしてあるけど、中身が気になって開けてしまった…これって無効?」
突然のことに、どうすればいいのか不安になっていませんか?
どうぞ、まずは深呼吸してください。家庭裁判所での「検認(けんにん)」と聞くと、裁判沙汰のような怖いイメージを持つかもしれませんが、実はこれ、遺言書の形や状態を記録として残すだけの、事務的な確認作業なんです。
私はこれまで多くの相続相談を受けてきましたが、検認手続きはポイントさえ押さえれば、専門家を雇わずにご自身で進めることが十分に可能です。
特に2024年の法改正で戸籍集めが劇的に楽になったため、以前よりずっとハードルは下がっています。
この記事では、検認の申立てから当日の流れ、もし開封してしまった時の対処法まで、専門用語を使わずにわかりやすく解説します。無駄な出費を抑えて、スムーズに相続手続きのスタートラインに立ちましょう。
【最初に確認】本当に「検認」が必要ですか?3つのチェックポイント
「遺言書が見つかった! すぐに家庭裁判所に行かなきゃ!」
ちょっと待ってください。焦って行動する前に、まずお手元の遺言書をよく確認しましょう。
遺言書の種類や保管状況によっては、面倒な検認手続きをスキップして、すぐに預金の解約や不動産の名義変更(相続登記)に進めるケースがあるのです。
ここを知らずに手続きを始めると、数ヶ月という貴重な時間と手間を無駄にしてしまいかねません。
以下の3つのパターンのうち、どれに当てはまるかチェックしてみてください。
1. 「公正証書遺言」である場合
遺言書の表題に「公正証書遺言」と書かれていませんか?
これは公証役場で、証人の立ち会いのもと公証人が作成した、極めて信頼性の高い遺言書です。原本が公証役場に厳重に保管されており、偽造や変造のリスクがないため、家庭裁判所での検認は必要ありません。
そのまま銀行や法務局へ持って行き、手続きを始めましょう。
2. 法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用している場合
これは2020年7月から始まった比較的新しい制度です。被相続人(亡くなった方)が生前に、自分で書いた遺言書を法務局に預けていた場合です。
この制度を利用していると、相続人は法務局で「遺言書情報証明書」を取得することになりますが、これには検認済証明書と同じ効力があるため、改めて家庭裁判所に行く必要はありません。
3. 自宅の金庫や仏壇から「自筆証書遺言」が出てきた場合
おそらく、この記事を読んでいる方の多くがこれに当てはまるでしょう。
公証役場や法務局を介さず、故人が自分で書いて自宅などで保管していた遺言書です。
たとえ封筒に入っていて厳重に封印されていたとしても、発見後に誰かが書き換えたり捨てたりするリスクが否定できません。
そのため、「発見された時点での遺言書の状態」を公的に証拠保全するため、必ず家庭裁判所で検認を受けなければなりません。
結論:検認が必要なのは「自宅保管の自筆証書遺言」だけ
ここを間違えるとスタート地点でつまづいてしまいます。「手書きの遺言書=検認」と単純に考えるのではなく、「どこに保管されていたか?」を確認してください。
もし手元にあるのが「自宅で見つけた手書きの遺言書」であれば、迷わず検認の準備を進めましょう。
【緊急対応】遺言書を「開封」してしまった時のリアル
「中身が気になって、ついペリッと開けてしまった…」
「整理していたら封筒が出てきて、何気なくハサミを入れてしまった…」
この状況、実は非常によくあることです。今、青ざめているあなたに、結論からお伝えします。
結論:遺言書は「無効」になりません。安心してください。
民法上、検認前に勝手に封印のある遺言書を開封することは禁止されていますが、それは「開封したからといって、遺言書の内容自体が無効になるわけではない」というルールになっています。
ですから、「せっかくのお父さんの遺言を私のせいで台無しにしてしまった!」と自分を責める必要はありません。
遺言書としての効力はそのまま残ります。
リスクは「5万円以下の過料」…でも実際は?
法律(民法1005条)では、検認を経ずに開封した者に対して「5万円以下の過料(かりょう)に処する」と定められています。「過料」とは、刑事罰(前科がつくもの)ではなく、行政上のペナルティ(お金を払う罰則)のことです。
しかし、現場の実務感覚としてお話しすると、悪意を持って改ざんしようとしたわけではなく、「知識がなくてうっかり開けてしまった」だけであれば、実際に過料を請求されるケースは稀です。
検認の当日、裁判官から「開封されていますが、これはあなたが?」と聞かれます。
その時に、「申し訳ありません。検認制度を知らず、中身を確認したくて開けてしまいました」と正直に事情を説明すれば、裁判官も鬼ではありません。「今後は気をつけてくださいね」と注意されるだけで済むことがほとんどです。
【絶対禁止】これだけはやってはいけません!
一番やってはいけないのは、開封してしまった事実を隠そうとして、糊やセロハンテープで再び封をすることです。
これをしてしまうと、「改ざんの痕跡がある」「何か隠そうとしたのではないか」と疑われ、他の相続人との争いの火種になりかねません。裁判所での印象も最悪になります。
もし開けてしまったなら、そのままの状態で大切に保管し、正直に申告してください。それが最も安全な解決策です。
自分でやる最大の壁が崩壊!「必要書類」の集め方【最新情報】
さて、ここからが具体的な手続きの話です。
これまで「検認手続きは自分でやらない方がいい」と言われてきた最大の理由は、「戸籍謄本集めが地獄のように面倒くさいから」でした。
検認を申し立てるには、亡くなった方の「生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本」が必要です。
昔は、本籍地を転々としていた場合、それぞれの役所に郵送で請求をかけ、小為替を買い、返信用封筒を入れ…という作業を何往復もしなければなりませんでした。これだけで1〜2ヶ月かかり、多くの人が挫折していたのです。
しかし、朗報です。2024年(令和6年)3月1日から、この常識が覆りました。
【超重要】2024年3月開始「戸籍の広域交付制度」を活用せよ!
法改正により、「本籍地以外の最寄りの市区町村役場」でも、戸籍証明書等をまとめて請求できるようになりました(広域交付制度)。
つまり、亡くなったお父様の本籍地が北海道だろうが沖縄だろうが、あなたが住んでいる東京の区役所の窓口に行けば、その場ですべての戸籍を揃えることができるのです。
- メリット: 面倒な郵送請求が不要。役所めぐりも不要。
- 注意点: 代理人(弁護士など)による請求や郵送請求はこの制度の対象外です。相続人本人が窓口に行く必要があります。
「専門家に頼むより、自分で窓口に行ったほうが早い」という逆転現象が起きているのが今なのです。
検認申立てに必要な書類リスト
最寄りの役所に行く前に、以下のリストをチェックしておきましょう。
- 申立書(裁判所のHPからダウンロード可能)
- 遺言者の戸籍謄本等(出生から死亡まで連続したもの ※広域交付で取得!)
- 相続人全員の戸籍謄本(今の本籍地のもの)
- 遺言者の住民票の除票(最後の住所を証明するため)
- 遺言書のコピー(封筒に入っている場合は封筒ごとのコピーでOK)
役所の窓口で「父が亡くなり、遺言書の検認手続きに必要なので、父の出生から死亡までの戸籍をすべて出してください」と伝えれば、職員さんがセットで出してくれます。難しく考える必要はありませんよ。
申立てから「検認期日」当日までの流れ
書類が揃ったら、いよいよ家庭裁判所に申立てを行います。「平日に裁判所に行く時間がない」という方も安心してください。申立て自体は郵送でも可能です。
1. どこの家庭裁判所に出すの?
申立先は、あなたの住所ではなく、「亡くなった方(被相続人)の最後の住所地」を管轄する家庭裁判所です。
裁判所のホームページで「管轄区域」を調べることができます。もし遠方の場合は、郵送での提出を強くおすすめします。
2. 費用はいくらかかる?
驚くほど安く済みます。専門家に依頼すると数万円〜十数万円かかる報酬が、自分でやれば実費のみです。
- 収入印紙: 遺言書1通につき800円
- 連絡用の郵便切手: 数百円〜数千円程度
- ※切手の内訳(金額と枚数)は裁判所によって異なります。必ず事前に管轄の裁判所に電話で確認するか、ウェブサイトでチェックしてください。
3. 「検認期日通知書」が届くのを待つ
申立書を提出してから、およそ1ヶ月〜2ヶ月後に、裁判所から「検認期日通知書」が届きます。
これはあなただけでなく、相続人全員に送られます。「〇月〇日の〇時に家庭裁判所に来てください」という招待状のようなものです。
他の相続人と疎遠だったり、仲が悪かったりする場合でも、裁判所が職権で通知を送ってくれるので、あなたが直接連絡を取り合う必要はありません。精神的な負担が少し軽くなりますね。
いざ家庭裁判所へ!当日のシミュレーション
いよいよ検認当日です。「どんな服装で行けばいいの?」「何を質問されるの?」と不安になる必要はありません。所要時間はわずか10分〜20分程度。あっけないほどすぐに終わります。
当日の服装と持ち物
- 服装: スーツである必要はありません。派手すぎない普段着(平服)で十分です。
- 持ち物:
- 遺言書の原本(絶対に忘れないでください!)
- 申立人の印鑑(認印でOKですが、念のため実印があると安心)
- 身分証明書(運転免許証など)
- 検認期日通知書
- 収入印紙 150円分(検認済証明書の申請用)
手続きの流れと質問内容
指定された時間に待合室に行くと、書記官に名前を呼ばれ、個室(審判廷の一室など)に通されます。
- 出席者の確認: 裁判官と書記官が座っています。
- 遺言書の提出・開封: 封印されている場合は、裁判官の前で開封します。
- 形状の確認: 裁判官が遺言書の日付、筆跡、署名、訂正印などを確認し、読み上げます。
- 相続人への質問:
- 「この筆跡は、亡くなった〇〇さんのものに間違いありませんか?」
- 「この印鑑は、〇〇さんが使っていたものですか?」
- 「遺言書はどこで発見されましたか?」
といった事実確認が行われます。遺言の内容が良いか悪いか、有効か無効かを議論する場ではありません。 ありのままを答えれば大丈夫です。
欠席者がいたらどうなる?
「兄は仕事で来られないと言っています」「弟とは連絡が取れません」
そんな場合でも安心してください。相続人全員が揃わなくても検認は行われます。
申立人(あなた)さえ出席して遺言書を持参すれば、手続きは滞りなく進みます。
欠席した人には、後日裁判所から「検認が終わりましたよ」という通知が届くだけです。
検認が終わった後に待っている「本当の相続手続き」
「終わったー!これで一安心!」と、そのまま帰ってはいけません。
検認が終わった直後に、必ずその場でやっておくべきことがあります。
1. 【最重要】「検認済証明書」の申請
検認が終わると、裁判所から「検認済証明書」の申請をするように案内されます。
これがないと、遺言書はただの紙切れ同然です。
銀行での預金解約や、法務局での不動産名義変更には、「遺言書原本」+「検認済証明書」がホッチキスで合体され、割印されたものが必要になります。
申請書に150円分の収入印紙を貼り、その場で手続きを済ませてしまいましょう。通常は待っていればその日のうちに交付されます。
2. ここからがスタート!銀行・法務局へ
検認済みの遺言書を手に入れたら、ようやく具体的な相続手続きに入れます。
- 銀行: 口座の凍結解除・解約手続き
- 法務局: 不動産の相続登記(義務化されましたのでお早めに!)
- 証券会社: 株式の名義変更など
FPからのアドバイス:期限を忘れないで
検認手続きに1〜2ヶ月かかっている間に、相続税の申告期限(死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内)は刻々と迫っています。
もし遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合は、検認と並行して税理士への相談や資料集めを進めておくのが賢明です。「検認が終わってから考えよう」では、期限ギリギリになってしまうことも多いのです。
よくある質問とその回答(FAQ)
Q1. 遺言書に「日付」や「署名」がない場合でも検認は必要ですか?
はい、必要です。検認はあくまで「遺言書の存在と状態を保存する手続き」であり、遺言の内容が法的に有効かどうかを判断する場ではないからです。明らかに形式不備で無効と思われる遺言書であっても、勝手に破棄したりせず、家庭裁判所で検認を受け、その状態を記録してもらう必要があります。有効か無効かの判断は、その後の話し合いや別の裁判で行うことになります。
Q2. 兄弟が遠方に住んでいて「検認には行けない」と言っていますが大丈夫ですか?
全く問題ありません。検認期日に出席しなければならないのは「申立人(あなた)」だけです。他の相続人には裁判所から通知が届きますが、出席するかどうかは各人の自由です。全員が欠席しても、あなたが遺言書を持って出席すれば手続きは成立します。欠席したことによって、その相続人が不利になったり、遺言承認とみなされたりすることもありませんのでご安心ください。
Q3. 検認にかかった費用(印紙代や戸籍取得費)は誰が負担しますか?
原則として、申立てを行った人(あなた)が一時的に立て替えることになります。法律上、必ずしも全員で割り勘にしなければならないという決まりはありませんが、遺産分割協議の中で「手続き費用」として清算し、遺産から差し引く形で実質的に全員負担とするケースが一般的です。後々のトラブルを避けるため、領収書はすべてコピーを取り、大切に保管しておいてください。
Q4. 遺言書の文字が癖字や達筆すぎて読めない箇所があったらどうなりますか?
無理に解読する必要はありません。検認の場では、裁判官が遺言書を読み上げますが、判読不能な箇所は「判読不能」として記録されます。ここで重要なのは、相続人たちが勝手に推測して読むのではなく、客観的に「読めない」という事実を確定させることです。もし内容の解釈で争いになる場合は、検認の場ではなく、その後の遺産分割協議などで話し合うことになります。
Q5. 検認が終わった後に、遺言書の内容が無効だと訴えることはできますか?
はい、可能です。検認手続きを経たからといって、その遺言書が「本物である」「有効である」とお墨付きをもらったわけではありません。もし「父は当時認知症で遺言能力がなかった」「偽造されたものだ」といった疑いがある場合は、検認終了後に別途「遺言無効確認訴訟」などを起こして争うことができます。検認はあくまで「スタートライン」に過ぎないということを覚えておいてください。
まとめ:検認は怖くない!新制度を活用してスムーズな手続きを
まずは「本当に検認が必要か?」を確認しよう
遺言書が見つかったら、すぐに裁判所へ走るのではなく、種類を確認しましょう。「公正証書遺言」や法務局保管の「自筆証書遺言」であれば、検認の手間は一切不要です。自宅で保管されていた自筆証書遺言の場合のみ、検認の準備を進めてください。ここを確認するだけで、無駄な手続きを大幅にカットできます。
うっかり「開封」してしまっても焦らなくてOK
封印のある遺言書を検認前に開けてしまっても、遺言書自体が無効になることはありません。5万円以下の過料というルールはありますが、悪意がなく正直に事情を話せば、厳しく追及されることは稀です。一番のリスクは隠蔽工作ですので、糊付けなどは絶対にせず、ありのままの状態で提出してください。
【2024年最新】戸籍集めは「広域交付」で一発解決
これまで検認の最大のハードルだった「出生から死亡までの戸籍集め」は、法改正により劇的に簡単になりました。遠方の本籍地まで行く必要はなく、最寄りの役所ですべてまとめて取得可能です。この制度変更のおかげで、専門家に依頼せずとも、自分自身で十分に手続きを完結できる時代になりました。
家庭裁判所での手続きは「事務的」で簡単なもの
「裁判所」という言葉に身構える必要はありません。検認当日は普段着で構いませんし、所要時間も15分程度です。裁判官から尋問されるようなことはなく、遺言書の形状確認が淡々と行われるだけです。欠席者がいても手続きは止まりませんので、ご自身のスケジュールに合わせて申立てを行ってください。
「検認済証明書」をもらってからが本番
検認が終わったら、必ずその日のうちに「検認済証明書」を申請しましょう。これと遺言書がセットになって初めて、銀行の解約や不動産の名義変更が可能になります。検認はあくまで通過点です。相続税の申告期限(10ヶ月以内)を意識しつつ、検認後は速やかに次の手続きへ移行しましょう。