【相続】準確定申告は4ヶ月以内!必要書類の集め方と「還付金で損しない」ための完全ガイド

大切なご家族とのお別れから、まだ日も浅いことと思います。心よりお悔やみ申し上げます。
葬儀や四十九日の準備に追われる中で、「準確定申告」という言葉を耳にし、「まだ何か手続きがあるの?」と途方に暮れている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
期限は「4ヶ月以内」。通常の確定申告よりも短いため、焦る気持ちは痛いほど分かります。
しかし、実はこの手続き、単なる義務ではありません。内容によっては払いすぎた税金が戻ってくる「還付」のチャンスであり、その後の相続税を減らすための重要なステップでもあるのです。
本記事では、数多くの相続相談を受けてきたFPが、書類が見つからない時の対処法から、相続税申告との賢い連携まで、実務に即して徹底解説します。「やらなきゃ」という重圧を、「こうすれば大丈夫」という安心に変えていきましょう。
【5秒チェック】あなたは対象?準確定申告が「必要な人」と「した方がお得な人」
「うちは普通のサラリーマン家庭だったから関係ない」「年金暮らしだったから不要だろう」
そう自己判断して書類を捨ててしまう前に、まずはこの章で「法的義務があるか」そして「義務はないがお金が戻ってくる可能性があるか」をチェックしてください。
対象者は以下の3つのパターンに分類されます。
1. 【義務あり】必ず申告しなければならないケース
以下の条件に一つでも当てはまる場合は、期限内(4ヶ月以内)の申告が法律上の義務となります。
これを怠ると、後述するペナルティの対象となるため注意が必要です。
- 個人事業主であった場合
事業所得や不動産所得(アパート経営など)があり、毎年確定申告をしていた方は、亡くなった年も当然対象です。 - 給与所得が高額(年収2,000万円超)だった場合
会社員や役員であっても、年収が2,000万円を超えると年末調整の対象外となるため、確定申告が必要です。 - 2か所以上から給与をもらっていた場合
主たる給与以外の収入が20万円を超える場合は申告が必要です。 - 公的年金等の収入が400万円を超えている場合
- 公的年金等の収入が400万円以下でも、それ以外の所得が20万円を超える場合
(例:年金暮らしだが、株の配当や家賃収入がある、生命保険の一時金を受け取ったなど)
2. 【義務なし】申告しなくてもよいケース(申告不要制度)
逆に、以下の条件を満たす場合は、準確定申告をする必要はありません。相続手続きの中で最も多いのがこのパターンです。
- 公的年金等の収入が400万円以下で、かつ、その他の所得が20万円以下の場合
これを「確定申告不要制度」と呼びます。多くの年金受給者はこちらに該当し、何もしなくても税務署からお尋ねが来ることはまずありません。 - 給与所得のみで、会社で年末調整が済んでいる場合
亡くなった時点で退職扱いとなり、会社側で年末調整を行ってくれていれば、遺族が改めて申告する必要はありません。
3. 【要検討】義務はないけど「還付」のチャンスがあるケース
ここがFPとして最もお伝えしたいポイントです。「義務がない=申告してはいけない」ではありません。「あえて申告することで、税金が戻ってくる(還付される)」ケースが多々あります。
- 多額の医療費を支払っていた場合(医療費控除)
亡くなる直前は、入院や手術などで高額な医療費がかかっているケースが非常に多いです。死亡日までに支払った医療費が一定額(基本は10万円)を超えていれば、申告により源泉徴収された税金が戻ってくる可能性があります。 - 年の途中で退職し、年末調整を受けていない場合
現役世代の方が亡くなった場合、給与から天引きされていた所得税が払いすぎになっていることが多く、申告すれば調整されます。 - 寄付(ふるさと納税含む)をしていた場合
もし被相続人が年金受給者で、年金から所得税や介護保険料などが天引きされていたなら、医療費控除などを申請することで「天引きされた税金」を取り戻せる可能性があります。
「面倒だからいいや」と諦める前に、源泉徴収票の「源泉徴収税額」の欄を見てください。
そこにある数字が、最大で戻ってくる金額です。数万円、時には十数万円になることもありますので、遺品整理の中に医療費の領収書があれば、絶対に捨てずに取っておきましょう。
期限とリスク】なぜ「4ヶ月」なのか?放置した時のリアルな損失
相続手続きの中で、準確定申告は「最初の関門」と呼ばれます。その理由は、「相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内」という非常にタイトな期限にあります。
通常の確定申告(翌年2月16日〜3月15日)と違い、準確定申告は待ってくれません。「忙しくて忘れていた」では済まされない、放置した場合のリアルな損失について解説します。
1. 「4ヶ月」は四十九日法要が終わってすぐ
まず、スケジュールの感覚を掴んでください。
例えば、11月1日にご家族が亡くなった場合、期限は翌年の3月1日までとなります。
葬儀を終え、諸々の手続きをし、四十九日の法要(約1ヶ月半後)が終わって「やっと一息」ついた頃には、もう期限まで残り2ヶ月を切っています。
この間に、後述する書類集めや遺産分割協議の準備もしなければなりません。「まだ時間がある」と思っていると、あっという間に期限超過になってしまいます。
2. ペナルティ:延滞税と無申告加算税
期限内に申告・納税をしなかった場合、本来納めるべき税金に加えて、ペナルティが課されます。
- 延滞税: 利息に相当する税金です。納期限の翌日から完納するまでの日数に応じて課税されます。
- 無申告加算税: 期限後に申告した場合、納付税額に対して原則15%〜20%が上乗せされます。
「知らなかった」という理由で、数万円〜数十万円単位の無駄な出費が発生するのは、ご遺族にとってあまりに痛手です。
3. 最大の損失?「青色申告特別控除」が使えなくなる
亡くなった方が個人事業主(アパート経営などを含む)で、「青色申告」を行っていた場合は特に注意が必要です。
期限内に準確定申告をしないと、最大65万円の青色申告特別控除が適用できなくなる可能性があります(期限後申告では10万円控除に減額されます)。
65万円の控除が消えるということは、その分所得が増え、支払う税金が跳ね上がることを意味します。さらに、住民税や国民健康保険料の算定にも悪影響を及ぼしかねません。
4. 還付申告の場合は「5年間」猶予がある
一方で、少し安心できる情報もお伝えします。
ステップ1で確認した「納税義務はなく、還付金を受け取るためだけの申告」である場合、4ヶ月という期限に縛られる必要はありません。
還付申告は、その年の翌年1月1日から5年間行うことができます。
【最大の難関】書類が見つからない!手際よく集める「捜索・再発行」マニュアル
準確定申告で最もハードルが高いのは、計算そのものではなく「書類集め」です。

「お父さんの部屋、書類が山積みで何がどこにあるか分からない…」



「ネットで管理していたみたいで、紙の明細がひとつもない…」
このような状況で途方に暮れないよう、優先順位をつけて効率よく集めるための「捜索・再発行の手引き」をまとめました。
1. これだけは絶対確保!必須書類リスト
まずは、以下の「三種の神器」を探してください。
- 源泉徴収票(原本)
- 年金受給者: 日本年金機構から送られてくる「公的年金等の源泉徴収票」。
- 給与所得者: 勤務先から発行される「給与所得の源泉徴収票」。
- 控除証明書
- 生命保険料、地震保険料の控除証明書。
- 社会保険料(国民健康保険、介護保険、後期高齢者医療保険)の納付済額のお知らせ。
- 医療費の領収書
- 1月1日から死亡日までに支払った、病院や薬局の領収書すべて。
2. 「見つからない!」時の再発行・入手ルート
家中探しても見当たらない場合、あるいは捨ててしまった場合は、すぐに再発行の手続きをとりましょう。
- 年金の源泉徴収票がない場合
死亡届を提出していれば、通常は死亡後しばらくして準確定申告用の源泉徴収票が相続人宛に送付されます(※時期によります)。手元にない、あるいは紛失した場合は、「ねんきんダイヤル」または最寄りの年金事務所へ連絡し、「準確定申告に使いたい」と伝えて再発行を依頼してください。マイナンバーカードがあれば「ねんきんネット」で確認できる場合もありますが、相続手続き中は電話での依頼が確実です。 - 保険の控除証明書がない場合
各保険会社のコールセンターへ連絡します。証券番号がわからなくても、被相続人の氏名・生年月日・電話番号などで契約照会ができるケースが大半です。「相続が発生したので、申告用の控除証明書を送ってほしい」と伝えれば、1週間〜10日ほどで郵送してくれます。 - 社会保険料の金額がわからない場合
市区町村の役所に問い合わせます。「被相続人が今年支払った納付済額証明書が欲しい」と申請すれば発行してもらえます(※通帳の引き落とし履歴でも証明になる場合がありますが、証明書をとるのが確実です)。
3. 要注意!「Web明細」の罠と攻略法
最近増えているのが、「ペーパーレス化」により紙の書類が届かないケースです。
亡くなった方のスマホやPCのパスワードがわからず、ログインできない…。そんな時は、無理にログインを試みる必要はありません。
各サービス(保険会社、証券会社、カード会社など)のカスタマーセンターに電話をし、「契約者が亡くなったため、紙の証明書を郵送してほしい」と依頼してください。
医療費の領収書だけは、病院での再発行が難しい(または有料・時間がかかる)場合が多いです。もし領収書を紛失してしまった場合、健康保険組合から届く「医療費のお知らせ(医療費通知)」で代用できることもありますが、通知が届くのは診療の数ヶ月後になるため、準確定申告の期限に間に合わないことがあります。
日頃から「医療費の領収書専用の箱」を作っておくことが、将来の家族への最大の思いやりになります。
【実践手順】準確定申告書の書き方と提出までの5ステップ
書類が揃ったら、いよいよ申告書の作成です。
「難しそう」と身構える必要はありません。基本的には通常の確定申告と同じ用紙を使いますが、「相続人全員で申告する」という点が最大の違いです。
この違いを乗り越えるための5つのステップを解説します。
ステップ1:最重要!「付表」を用意して相続人全員の署名をもらう
準確定申告には、通常の申告書(第一表・第二表)に加えて、必ず添付しなければならない独自の書類があります。
それが「死亡した者の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表」(以下、付表)です。
この付表には、相続人全員の氏名、住所、マイナンバー、そして「誰がどのくらい遺産を受け継ぐか(法定相続分など)」を記載し、全員が署名(または記名押印)する必要があります。
【注意】 相続人が複数いる場合、原則として「連署(一つの書類に全員が名前を書く)」で提出します。遠方に住んでいるなどで署名が難しい場合は、個別に作成して提出することも可能ですが、手間を考えると郵送で回して署名を集めるのが一般的です。
ステップ2:申告書の「表題」と「氏名欄」を修正する
使用するのは、通常の確定申告書(A様式やB様式)です。国税庁のサイトからダウンロードするか、税務署でもらえますが、書き方に少し工夫が必要です。
- タイトルの余白: 申告書上部の「確定申告書」という文字の前に「準」と書き足して、「準確定申告書」とします。
- 氏名欄: ここには「亡くなった方の名前」と「相続人代表の名前」を書きます。
- 記載例:「被相続人 〇〇〇〇(亡くなった方の名前)」
- その下に:「相続人代表 〇〇〇〇(あなたの名前)」
※現在はe-Taxなどでも入力フォームが整備されていますが、手書きの場合はこの形式が基本です。
ステップ3:金額を記入する(基本は通常と同じ)
集めた源泉徴収票や控除証明書をもとに、収入や控除額を記入します。
ここは通常の確定申告と同じですが、「医療費控除」の計算期間だけは「1月1日から死亡日までに支払った分」に限られる点に注意してください(死亡後に相続人が支払った入院費などは、準確定申告の医療費控除には含められず、相続税の債務控除の対象になります)。
ステップ4:提出先は「亡くなった方」の住所地の税務署
ここを間違える方が非常に多いです。
提出すべき税務署は、あなたの住所地(相続人の住所)ではなく、「亡くなった方(被相続人)の住所地」を管轄する税務署です。
郵送で提出する場合も、宛先を間違えないよう確認してください。
ステップ5:納税・還付の手続き
- 納税の場合: 相続人全員に連帯納付義務があります。代表者がまとめて払うか、各相続人が相続分に応じて納付書で支払います。
- 還付の場合: 申告書に記入した代表者の口座にまとめて振り込んでもらうのがスムーズです。この場合、付表にて「還付金の受領を代表者に委任する」旨の委任状欄への記入(押印)が必要になります。
以前は紙での提出が主流でしたが、現在は国税庁の「確定申告書等作成コーナー」から、準確定申告書の作成およびe-Tax送信(電子申告)がしやすくなっています。
相続人代表者がマイナンバーカードを持っていれば、自宅から送信可能です(※他の相続人の委任状などは別途イメージデータ送信や郵送が必要な場合があります)。税務署に行く時間が取れない方は、ぜひ活用してください。
【ここが重要】準確定申告の結果を「相続税申告」にどう反映させるか
準確定申告が終わって「やれやれ」と安心するのはまだ早いです。
実は、ここで確定した数字(納税額または還付額)は、その後に続く「相続税申告」に直結します。
ここを正しく連携させないと、せっかくの節税チャンスを逃したり、逆に申告漏れとして税務調査の対象になったりしてしまいます。FPとして最も注意していただきたいポイントを解説します。
1. 納めた税金は「債務控除」で相続財産から引ける
準確定申告で税金を支払うことになった場合、その税金は本来「亡くなった方が生前に支払うべき借金(債務)」の扱いになります。
つまり、相続税を計算する際、プラスの遺産総額からこの納税額を「マイナスの財産」として差し引く(債務控除する)ことができます。
例えば、相続税率が30%の家庭で、準確定申告により100万円の所得税を納めたとします。
これを相続税申告でしっかり債務控除すれば、相続税が約30万円安くなる計算です。
「税金を取られた」と嘆くだけでなく、「その分、相続税が安くなる」という視点を忘れずに、領収書や納付書の控えを必ず相続税の担当者(またはご自身)に渡してください。
2. 戻ってきた還付金は「相続財産」として計上必須
逆に、還付金を受け取った場合は要注意です。
「ラッキー、臨時収入だ!」と思って使い込んでしまい、相続税申告に載せるのを忘れるケースが後を絶ちません。
この還付金は、亡くなった方が本来受け取るべき権利を持っていたお金、つまり「未収金」という立派な相続財産です。
税務署は「還付金を振り込んだ事実」を把握していますので、もし相続税申告書にこの記載がないと、「財産隠し」を疑われるきっかけになりかねません。数百円、数千円であっても、必ず計上してください。
3. この「連携」こそが、将来の安心を作る
相続の手続きは、すべてが一本の線でつながっています。
準確定申告(所得税)と相続税申告は、言わば「セット」です。
- 所得税を払う → 相続財産が減る(相続税が下がる)
- 所得税が戻る → 相続財産が増える(相続税が上がる)
この関係性を理解しておけば、たとえ準確定申告で納税になっても「相続税対策になった」と前向きに捉えられますし、還付の場合も申告漏れのリスクを回避できます。
4ヶ月目のゴール(準確定申告)は、10ヶ月目のゴール(相続税申告)への重要なバトンパスなのです。
よくある質問とその回答(FAQ)
Q1. 相続人が複数いますが、仲が悪く連絡を取りたくありません。別々に申告できますか?
原則は連署による共同提出ですが、どうしても協力できない場合は、各相続人が個別に作成して提出することも可能です。ただし、その場合は申告書に「他の相続人の氏名や住所」を記載して提出した上で、他の相続人に対して「私は申告しました」という内容と申告内容を通知しなければならないルールがあります。完全に無関係で進めることはできません。
Q2. 準確定申告を忘れて4ヶ月を過ぎてしまいました。今からでも間に合いますか?
期限を過ぎても申告自体は可能ですし、無申告の状態を続けるより一日でも早く提出すべきです。ただし、期限後申告として扱われるため、本来の税額に加えて無申告加算税や延滞税がかかる可能性があります。また、青色申告特別控除の65万円枠は適用できなくなります。気づいた時点で速やかに管轄の税務署か税理士に相談してください。
Q3. 葬儀費用は準確定申告の控除対象になりますか?
いいえ、なりません。準確定申告(所得税)では、葬儀費用を控除することは認められていません。葬儀費用を経費として引けるのは「相続税申告」の方です。多くの人が混同しやすいポイントですので注意してください。準確定申告で引けるのは、あくまで亡くなった方が生前に支払った医療費や社会保険料、生命保険料控除などに限られます。
Q4. 2025年現在、電子申告(e-Tax)で準確定申告はできますか?
はい、可能です。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、相続人代表者がe-Taxで送信できます。以前は紙の付表の提出が必須でしたが、現在はシステム改修が進み、利便性が向上しています。ただし、代表者以外の相続人の委任状などは、別途イメージデータ(PDF)で送信するか、郵送で提出する必要があるケースもありますので、画面の指示に従ってください。
Q5. 専業主婦の母が亡くなりましたが、何か申告は必要ですか?
基本的には不要なケースが多いですが、確認が必要です。もしお母様が株取引をしていて特定口座(源泉徴収なし)で利益が出ていたり、生命保険の一時金を受け取っていたりした場合は申告が必要になることがあります。収入が遺族年金などの非課税所得のみであれば申告は不要です。不安な場合は、過去の通帳を見て大きな入金がないか確認しましょう。
まとめ
まずは「要・不要」の冷静な判断を
準確定申告は全員に義務があるわけではありません。年金収入400万円以下などの要件を確認し、不要であれば無理にする必要はありません。ただし「還付金があるかも」という視点は持ちましょう。
期限は「4ヶ月」!スピード勝負
四十九日が終わると期限は目前です。放置すると延滞税などのペナルティだけでなく、青色申告の承認取り消しなど大きな不利益を被ります。スケジュール管理を徹底しましょう。
書類集めが最大の山場である
計算よりも「源泉徴収票や領収書がない」ことで時間が取られます。年金事務所や保険会社への再発行依頼は、電話一本で済みますが郵送に時間がかかるため、真っ先に着手すべきタスクです。
準確定申告と相続税はセットで考える
納めた税金は「債務控除」で相続税を減らし、戻った還付金は「相続財産」として申告する。この連動を忘れると、二重払いになったり脱税を疑われたりします。必ず両方の申告をリンクさせてください。
難しければ早めに専門家へ相談を
書類が見つからない、計算が複雑、相続人同士が揉めている。そんな時は無理をせず税理士に依頼するのも手です。準確定申告の手数料はかかりますが、精神的な負担とミスのリスクを考えれば安い投資と言えます。