【代償分割×生命保険】実家は渡さない!遺言書とのセットで完璧にする「争族ゼロ」の現金化マニュアル


「実家は長男の自分が継ぐ。その代わり、弟には現金を渡して納得してもらいたい」
そう考えて準備を進めようとした矢先、「その現金、一体どうやって用意すればいいんだ?」と途方に暮れていませんか?
親の預貯金が十分にあれば問題ありませんが、多くのご家庭では「資産の大半が不動産」というのが現実です。
手持ちの現金がないばかりに、泣く泣く実家を売却することになった事例を、私は数え切れないほど見てきました。
絶対に実家を手放したくないあなたへ。
単にお金を用意するだけでは足りません。「誰が」「何のために」使うお金なのかを法的に固めておく必要があるのです。
この記事では、兄弟間のトラブルを100%防ぎ、スマートに代償分割資金を用意する具体的な手順を公開します。
実家を相続したい人の前に立ちはだかる「代償分割」の壁
相続の現場において、最も揉める原因となるのが「分けられない財産」、つまり不動産です。
「俺が実家を継ぐから、お前たちには我慢してほしい」
昭和の時代であれば、長男のこの一言で収まったかもしれません。
しかし、権利意識が明確な現代において、兄弟姉妹が自身の法定相続分を主張するのは当然の権利です。
まずは、実家を守るために避けて通れない「代償分割」という仕組みの現実と、資金不足が招く最悪のシナリオについて正しく理解しましょう。ここを甘く見ると、家族の絆は修復不可能なほどに裂けてしまいます。
【現実】「不動産」は分けられない。だから「現金」が必要になる
結論から申し上げますと、実家を単独で相続するためには、他の相続人を納得させるだけの「見返り(現金)」を用意しなければなりません。これが「代償分割」の基本ルールです。
例えば、相続人が兄弟2人(兄・弟)で、遺産が「実家(評価額3,000万円)」のみだったとしましょう。
法定相続分通りに分けるなら、兄と弟それぞれ1,500万円ずつの権利があります。
ここで兄が「実家をすべて相続したい」と主張する場合、弟が受け取るはずだった1,500万円相当の価値が不足してしまいます。
この不公平を解消するために、兄は自分の固有財産(貯金など)から1,500万円を弟に支払わなければなりません。このお金こそが「代償金」です。
不動産はケーキのようにナイフで切って分けることができません。「共有名義にすればいいのでは?」と安易に考える方もいますが、それは問題の先送りに過ぎず、将来の売却や建て替えの際に全員の同意が必要となり、次の世代で必ず大きなトラブルになります。
したがって、実家を守る=「代償金を現金で用意する」ことと同義なのです。
代償金が払えないとどうなる? 最悪のシナリオ「競売・換価分割」
では、もしも兄に1,500万円の貯金がなく、代償金を用意できなかったらどうなるのでしょうか?
兄弟仲が良く、弟が「お金なんていらないよ、兄貴が住みなよ」と言ってくれれば良いのですが、現実はそう甘くありません。
弟にも生活があり、家族がいれば「もらえるものはちゃんともらって」というプレッシャーがかかることもあります。
これは、文字通り「不動産をお金に換えて分ける」方法です。つまり、先祖代々受け継いできた実家を市場で売却し、諸経費を引いた現金を兄弟で山分けすることになります。
さらに話し合いがこじれて裁判沙汰になれば、「競売」にかけられるリスクさえあります。競売になれば市場価格の7割程度で買い叩かれることも珍しくありません。
実家は人手に渡り、手元に残るお金も目減りし、兄弟の仲は最悪になる……。これが、準備不足が招く「実家相続の最悪のシナリオ」です。
こうならないために、親が元気なうちに「確実に現金を用意する仕組み」を作っておくことが、実家を守る唯一の防衛策なのです。
なぜプロは「代償分割の資金」に生命保険を選ぶのか



「代償金が必要なら、親にコツコツ貯金しておいてもらえば良いのでは?」
そう思われる方も多いでしょう。確かに現金は必要ですが、相続の現場を知る専門家として言わせていただくと、「銀行預金」は相続発生直後に最も使い勝手が悪くなる資産の一つです。
一方で、生命保険は「現金の王様」とも呼ばれるほど、相続時の流動性と法的強度が桁違いです。
なぜ多くの弁護士や税理士が生命保険を推奨するのか。その理由は、以下の3つの決定的なメリットがあるからです。
【即効性】凍結される預金とは違い、最短数日で現金が手に入る
銀行預金は、口座名義人が亡くなった事実を銀行が知った瞬間に「口座凍結」されます。
公共料金の引き落としすら止まり、当然、窓口でお金をおろすこともできなくなります。
2019年の法改正で一定額までは仮払いを受けられる制度ができましたが、限度額(1金融機関につき150万円まで等)があり、数千万円規模になりがちな代償金の支払いには到底足りません。
これに対し、生命保険金(死亡保険金)は、受取人が請求手続きを行えば、保険会社にもよりますが最短数日〜1週間程度で指定口座に振り込まれます。
遺産分割協議が長引いて泥沼化している最中でも、この保険金だけは確実に手元に届きます。
この「即座に動かせるまとまった現金」があるという安心感は、精神的に追い詰められがちな相続手続きにおいて、何物にも代えがたい武器となります。
【固有財産】遺産分割協議の対象外! 誰のハンコも要らずに使える
ここが最も重要なポイントです。親が残した「預金」や「不動産」は『遺産(相続財産)』となり、相続人全員で「どう分けるか」を話し合い、全員の実印(ハンコ)が揃わないと1円も動かせません。
兄弟の中に一人でも「納得できない!」とハンコを押さない人がいれば、預金は永遠に凍結されたままです。
しかし、死亡保険金は民法上、「遺産」ではなく「受取人と保険会社との契約に基づく財産」とみなされます。つまり、遺産分割協議のテーブルに乗せる必要がありません。
判例(最高裁決定等)においても、原則として死亡保険金は遺産分割の対象にならないとされています。
つまり、他の兄弟がどれだけ「遺産を分けろ!」と騒いでも、あなたが受取人に指定されていれば、誰の許可も得ずに単独で請求し、受け取ることができるのです。
この「誰にも邪魔されない資金」を確保できることこそが、代償分割において保険が最強とされる最大の理由です。
【節税効果】「500万円×法定相続人」の非課税枠で手取りを最大化
同じ1,000万円を受け取るにしても、預金と保険では手残りが違います。預金として1,000万円残っていれば、その全額が相続税の課税対象です。しかし、生命保険金には国が定めた強力な非課税枠が存在します。
相続税法第12条により、「500万円 × 法定相続人の数」までは非課税と定められています。
例えば、相続人が3人(母・兄・弟)の場合、1,500万円(500万×3人)までの死亡保険金には相続税がかかりません。
仮に親が1,500万円の現金を持っていたとして、そのまま預金で残せば課税対象ですが、これを一時払い終身保険などに変えておけば、評価額ゼロ(非課税)で次世代に渡せるのです。
代償金を受け取るあなた自身の税負担を減らすためにも、現金を保険という形に変えておくことは必須のテクニックと言えます。
保険だけでは片手落ち!「遺言書」とのセット運用が絶対条件
生命保険でお金を用意すれば、すべて解決!……と安心するのはまだ早いです。
実は、保険には「受取人の固有財産」という強力な性質があるがゆえの落とし穴が存在します。
例えば、長男を受取人にして1,500万円の保険に入ったとします。
親御さんの意図としては「これで弟に代償金を払ってくれ」というつもりでも、法的にはこのお金は「長男のもの」です。
極端な話、長男が「保険金はもらった。でも実家の権利も法定通り半分欲しい」と主張した場合、それを止める法的な強制力が保険証券にはありません。
だからこそ、車の「エンジン(資金)」である保険に加え、「ハンドル(行き先指定)」である遺言書が絶対に不可欠なのです。
保険金は「代償金として使え」と法的に指定する(遺言の効力)
遺言書がない場合、結局は兄弟全員での話し合い(遺産分割協議)が必要です。そこで揉めれば、せっかくの保険金も活きません。
親が遺言書で「実家は長男に相続させる」と明記し、同時に「その代わり、長男は弟に現金1,500万円を支払うこと(代償分割の指定)」と書き残すことで、初めて法的な強制力が生まれます。
これにより、長男は実家を確実に取得できる法的根拠を得ると同時に、弟に対する支払い義務も明確になります。
「保険金が入ったら払う」という口約束ではなく、遺言書という公的な文書で「実家の取得」と「現金の支払い」をリンクさせることが、トラブルを未然に防ぐ鉄則です。
トラブルを防ぐ「付言事項(ふげんじこう)」の書き方文例
法律で白黒つけるだけでは、家族の感情にしこりが残ることがあります。そこで活用したいのが、遺言書の最後に添えるメッセージ「付言事項」です。ここには法的効力はありませんが、裁判官も重視するほど、遺族の心を動かす力があります。
(文例):「長男の太郎には、父さんが大切にしてきた家を継いでほしい。次郎には、太郎が受け取る生命保険金から代償金を支払う形をとったので、どうか理解して二人で仲良くやってほしい。これが父さんの最後の願いです。」
このように、「なぜそう分けたのか」「どうして保険を使ったのか」という親の愛ある説明が一言あるだけで、弟さんの納得感は段違いになります。
無機質な法律文書に「体温」を宿らせる、魔法のテクニックです。
これで完璧!「指定代理請求人」も設定して認知症リスクもカバー
相続対策は、親が亡くなるまで契約が維持されて初めて意味を成します。しかし、もし親御さんが認知症になったり、病気で意思疎通ができなくなったりしたらどうなるでしょうか?
「保険料の支払いが滞りそう」「内容を確認したい」という時に、本人が手続きできず、最悪の場合、契約が失効してしまうリスクがあります。
こうした事態に備え、契約時に「指定代理請求人(していだいりせいきゅうにん)」を設定し、信頼できる家族(例えば実家を継ぐ長男)を指名しておきましょう。
これにより、いざという時に親に代わって家族が保険会社とやり取りができ、大切な「代償分割の資金源」を最後まで守り抜くことができます。
ここまでケアしてこそ、万全の相続対策と言えます。
失敗できない! 税金で損しないための「契約形態」完全ガイド
生命保険は「誰が保険料を払ったか(契約者)」「誰にかかっているか(被保険者)」「誰が受け取るか(受取人)」の組み合わせによって、受け取り時にかかる税金の種類がガラリと変わります。
代償分割の資金作りにおいて、正解のパターンはたった一つです。ここを間違えると、先ほどお伝えした「非課税枠」が使えず、高い税金を払う羽目になります。
基本はこれ!「契約者=被保険者=親」にするべき理由(相続税扱い)
このパターンで契約した場合のみ、受け取った死亡保険金は「みなし相続財産」として扱われ、相続税の対象になります。
「えっ、税金がかかるの?」と不安になるかもしれませんが、ここで思い出してください。
相続税には「500万円 × 法定相続人の数」という強力な非課税枠があります。この枠を使えるのは、相続税扱いになるこの契約形態だけなのです。
親自身が自分の財産(預金など)を使って保険料を支払うことで、手元の「課税される現金」が減り、「非課税枠のある保険金」に変わります。これが最も効率的な資産移転の方法です。
やってはいけない「契約者=子」のパターン(所得税・贈与税の罠)
例えば「親にお金を出させるのは悪いから」と、【契約者:子、被保険者:親、受取人:子】という契約にした場合、受け取った保険金は「自分が払って自分が受け取った」とみなされ、「所得税(一時所得)」の対象になります。
所得税には相続税のような「500万円×人数」という大きな非課税枠はありません(特別控除50万円のみ)。
さらに最悪なのは、【契約者:母、被保険者:父、受取人:子】のようなねじれた形です。これは「贈与税」の対象となり、最も高い税率が課せられる可能性があります。
せっかく用意した代償金が税金で目減りしないよう、契約書の名義欄はFPなどの専門家に必ずチェックしてもらいましょう。
親が高齢・持病ありでも諦めないで! 保険加入の裏ワザ



「うちはもう親が80代だし、高血圧や糖尿病もあるから保険なんて無理……」
そう諦めてしまうのは非常にもったいないです。実は、相続対策に使われる保険は、医療保険(入院などの保障)とは審査の基準が全く異なります。
80代・持病ありでも入れる「一時払終身保険」「引受基準緩和型」
代償分割対策の場合、月払いでコツコツ積み立てるよりも、まとまった現金を一度に保険会社に預ける「一時払い」が主流です。
保険会社としても、既にまとまったお金を受け取っているためリスクが低く、90歳近くまで加入できたり、健康告知がほぼ不要だったりする商品が多数用意されています。
例えば、手元にある1,000万円を「一時払い終身保険」に移すとします。
万が一の時は1,000万円(+運用益)が戻ってくる仕組みですが、これだけで「預金」が「保険金」に変わり、即座に受取人固有の財産となり、非課税枠も使えるようになります。
「お金の置き場所を銀行から保険会社に変えるだけ」で、相続対策が完了するのです。
告知事項のポイントと、加入できない場合の最終手段
もちろん、すべての人が入れるわけではありませんが、現在は「引受基準緩和型(ひきうけきじゅんかんわがた)」といって、
「過去3ヶ月以内に入院・手術を勧められていないか」
「過去2年以内に入院・手術をしていないか」
といった簡単な質問(告知事項)をクリアすれば加入できる保険が増えています。
持病があっても服薬中ならOKというケースが大半です。
どうしても保険に入れない健康状態の場合は、信託銀行などが扱う「遺言代用信託(いごんだいようしんたく)」というサービスもあります。保険と同様に、すぐに現金を受け取れる機能を持っています。
「健康状態が不安だから」と自己判断せず、複数の引受基準を知っている専門家に相談することで、道は必ず開けます。
よくある質問
Q1. 遺留分を請求された場合、生命保険金も計算に含まれますか?
原則として、死亡保険金は受取人固有の財産であるため、遺留分算定の基礎となる財産には含まれません。しかし、例外もあります。保険金の額が遺産総額に比べてあまりにも高額であり、他の相続人との不公平が著しいと判断される場合には、特別受益に準じて遺留分の計算に持ち戻されるという最高裁の判例があります。極端な金額設定には注意が必要ですので、全体のバランスを専門家と確認してください。
Q2. 代償金を受け取った兄弟に税金(譲渡所得税など)はかかりますか?
代償金として現金を受け取った兄弟には、所得税や贈与税はかかりませんが、相続税の課税対象にはなります。代償分割はあくまで遺産の分け方の一つであり、もらった現金は「相続した財産」とみなされるからです。一方で、代償金を支払う側(あなた)が、支払資金を作るために自分の不動産や株を売却した場合は、譲渡所得税がかかる可能性があります。だからこそ、税金のかからない生命保険での準備が有利なのです。
Q3. 父が保険嫌いです。説得する良いフレーズはありますか?
「万が一の時のために」と言うと縁起でもないと嫌がられることが多いです。おすすめは「実家を守るための経費」や「節税対策」という切り口です。「お父さんが大切にしている家を将来も守り続けたいから、その維持費を準備させてほしい」「現金のままだと税金で損をするから、口座を保険に移すだけで非課税枠を使おう」と伝えると、家族のため、あるいは損得勘定として耳を傾けてもらいやすくなります。
Q4. 相続放棄をした場合でも、死亡保険金は受け取れますか?
はい、受け取れます。死亡保険金は民法上の遺産ではなく、保険契約に基づく権利だからです。例えば、親に多額の借金があり、実家も含めてすべての相続を放棄(相続放棄)したとしても、受取人に指定されていれば保険金だけは問題なく受け取ることができます。ただし、相続放棄をした人は、税法上の「500万円×法定相続人の数」という非課税枠は使えなくなるため、全額が課税対象となる点には注意が必要です。
Q5. 遺言書がない場合、保険金はどう扱われますか?
遺言書がなくても、受取人に指定されていれば保険金自体は受け取れます。しかし、「そのお金を代償金として兄弟に払え」という法的強制力はなくなります。あくまであなたの良心に任される形になるため、兄弟から「保険金ももらって、実家ももらうのか」と不満を持たれるリスクが高まります。円満な解決を目指すのであれば、やはり遺言書(または死因贈与契約)で使い道を明確にしておくことを強く推奨します。
まとめ
不動産相続は「分けられない」からこそ揉める
実家などの不動産は物理的に分割できないため、特定の誰かが引き継ぐ場合、他の相続人に不公平感が生まれます。これを解消する唯一の手段が「代償分割(現金の支払い)」ですが、そのためのまとまった現金を用意できずに、結局実家を売却せざるを得なくなるケースが後を絶ちません。
生命保険は「即効性」と「法的保全」に優れた最強資金
銀行預金は死亡と同時に凍結されますが、生命保険はすぐに現金化でき、遺産分割協議の対象外(固有財産)として扱われます。誰のハンコも必要とせず、実家を継ぐあなたが自由に使える資金を確実に確保できるため、代償分割の準備としてこれ以上の手段はありません。
「遺言書」とのセット運用がトラブル回避の絶対条件
保険金を用意するだけでは不十分です。「この保険金を使って代償金を支払うこと」を遺言書で法的に義務付けることで、初めて「実家の確保」と「兄弟への公平な分配」がリンクします。さらに「付言事項」で親の想いを書き添えることで、感情的な対立も防ぐことができます。
契約形態を間違えると「税金」で大損をするリスクも
代償分割対策として保険を活用する場合、「契約者=親」「被保険者=親」「受取人=子」の形にするのが鉄則です。これにより相続税の非課税枠(500万円×人数)が使えます。子が保険料を負担する形などは税制上のメリットが薄れるため、契約前に必ず確認しましょう。
高齢・持病があっても諦めずに「今」動くことが重要
「親が高齢だから無理」と諦める必要はありません。一時払い終身保険や引受基準緩和型など、健康状態に不安があっても加入できる保険は多数あります。認知症になってからでは契約も遺言もできません。親が元気なうちに家族会議を開き、対策を実行に移すことが実家を守る第一歩です。