【完全版】相続欠格・廃除とは?相続権を失うケースと「渡さない」ための現実的な対策


「親を裏切ったあの子に、財産を渡したくない」



「これまでの非道を考えると、相続権を剥奪したい」
家族間の深い溝は、時に「相続させない」という強い決意に変わります。
そのための法的手段として「相続欠格」と「廃除」がありますが、実はこの2つ、似ているようで全く別物です。
さらに言えば、法的に相続権を奪う「廃除」は、家庭裁判所のハードルが非常に高く、現実には認められないケースも少なくありません。
では、諦めるしかないのでしょうか?いいえ、そんなことはありません。
この記事では、多くの相続相談を受けてきたFPの視点から、欠格と廃除の法的な違いを解説するとともに、もし法的な廃除が難しくても、あなたの想いを実現するための「生命保険や遺言を活用した現実的な対策」まで踏み込んでご紹介します。
感情的なしこりを整理し、納得のいく解決策を一緒に見つけましょう。
【一覧表で比較】「相続欠格」と「廃除」の決定的な違い
結論から申し上げますと、相続欠格は「法律違反に対する自動的なペナルティ」であり、廃除は「被相続人(財産を遺す人)の意思による勘当」です。
まずは全体像を把握するために、両者の違いを整理した比較表をご覧ください。
| 項目 | 相続欠格 | 推定相続人の廃除 |
| 基本的な性質 | 重大な不正・犯罪への制裁 | 被相続人の意思による剥奪 |
| 対象者 | 全ての相続人 | 遺留分を持つ相続人 (配偶者・子・親など) ※兄弟姉妹は対象外 |
| 発生する理由 | 殺人、詐欺、脅迫、遺言書の偽造など (法で定められた5つの事由) | 虐待、重大な侮辱、著しい非行など (家庭裁判所が認める事由) |
| 手続き | 不要 (事由が発生した時点で即剥奪) | 必要 (家庭裁判所への申立て・審判) |
| 戸籍への記載 | 記載されない | 記載される (身分事項欄に「廃除」と載る) |
| 撤回(許し) | 原則不可 (ただし遺贈は可能) | いつでも取り消し可能 |
違い1:意思が必要か、自動的か
相続欠格は、遺言書を書き換えたり、親を殺害しようとしたりといった「民法で定められた不正行為」をした瞬間に、誰の意思とも関係なく自動的に相続権を失います。手続きも不要です。
一方で廃除は、「あいつは許せないから相続させたくない」という被相続人(親など)の「意思」が出発点となります。
しかし、単に思うだけではダメで、家庭裁判所に「これだけ酷いことをされたので、権利を奪ってください」と申し立て、認められて初めて効力を持ちます。
違い2:戸籍に残るか、残らないか
意外と知られていないのが戸籍への記載です。
廃除が確定すると、その相続人の戸籍の身分事項欄に「推定相続人廃除」と明確に記載されます。
これは一種の社会的制裁とも言える重い記録です。対して相続欠格は、戸籍には一切記載されません。
違い3:対象となる相続人の範囲
なぜなら、もともと遺留分がない「兄弟姉妹」に財産を渡したくない場合は、わざわざ裁判所で廃除しなくても、「兄弟姉妹には相続させない」という遺言書を書くだけで100%排除できるからです。
このように、まずはご自身が直面している状況が「法を犯した(欠格)」のか、「感情的に許せない(廃除)」のかを見極めることがスタートラインとなります。
【相続欠格】問答無用で相続権を剥奪される5つのケース
「相続欠格」とは、遺産欲しさに犯罪行為を犯したり、被相続人(財産を遺す人)の遺言を不正に書き換えたりした相続人から、有無を言わさず相続権を剥奪する制度です。
これは民法891条で定められた以下の5つの行為のいずれかを行った時点で、特段の手続きを経ることなく、即座に相続資格を失います。
① 故意に被相続人や先順位者を死亡・死亡させようとした(殺人・殺人未遂)
財産を早く手に入れるため、あるいは邪魔なライバル(自分より順位が高い相続人や同順位の相続人)を消すために、殺害したり殺害しようとしたりした場合です。
※過失致死(不注意による事故など)や正当防衛の場合は対象外です。「故意(わざと)」かどうかがポイントになります。
② 被相続人が殺害されたのを知って告発・告訴しなかった
親などが誰かに殺されたことを知っていながら、警察に通報しなかった場合です。
※ただし、その人がまだ幼い(是非の弁別がない)場合や、犯人が自分の配偶者や直系血族(子や親)だった場合は、かばってしまう心情を考慮して除外されます。
③ 詐欺・強迫によって遺言を作成・撤回・変更させた
「遺言を書かないと酷い目に合わせるぞ」と脅したり、「他の兄弟はもう死んだ」と嘘をついたりして、自分に有利な遺言を書かせたり、変更させたりした場合です。
④ 詐欺・強迫によって遺言の作成などを妨害した
親が「遺言を書きたい」と言っているのに、「そんなもの書く必要はない」と嘘をついて止めさせたり、脅して書かせなかったりした場合です。
⑤ 遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した
実務で最もトラブルになりやすいのがこのケースです。
- 偽造・変造: 勝手に遺言書を作成したり、書き換えたりすること。
- 破棄・隠匿: 自分に不利な遺言書を見つけて破り捨てたり、金庫の奥に隠して「なかったこと」にすること。
「整理中に間違って捨ててしまった」「見つけたけど、どうしていいか分からず一旦しまっておいた(隠す意図はなかった)」というように、不当な利益を得る目的がなかった場合は、欠格事由には当たらないという判例があります(最高裁 昭和56年4月3日判決など)。
しかし、それを証明するのは大変です。遺言書を見つけたら、決して自己判断で開封したり隠したりせず、速やかに家庭裁判所の検認手続きを受けることが鉄則です。
【推定相続人の廃除】「許せない」ときに家庭裁判所へ申し立てる制度
相続欠格のような犯罪行為はないものの、「親に対して酷い虐待をした」「長年音信不通で、金の無心しかしない」といった相続人に財産を渡したくない場合に使われるのが「推定相続人の廃除」です。
これは被相続人が家庭裁判所に請求し、認められれば将来の相続権を剥奪できる制度です。
廃除が認められる3つの要件
民法892条では、以下のいずれかに該当する場合に廃除ができると定めています。
- 被相続人に対する虐待
日常的な暴力や、病気なのに食事を与えないなどの身体的・精神的な虐待。 - 被相続人に対する重大な侮辱
親の名誉を著しく傷つける言動や、人前で激しく罵倒し続けるなどの行為。 - その他の著しい非行
この解釈が最も幅広いです。例えば、多額の借金を親に肩代わりさせ続けた、反社会勢力に入り家族に迷惑をかけた、正当な理由なく長期間家出し生活の基盤を崩壊させた、などが該当します。
具体的な手続き方法
- 生前廃除: 被相続人が生きているうちに、自ら家庭裁判所へ申し立てる。
- 遺言廃除: 遺言書に「〇〇を廃除する」という意思と理由を書き、遺言執行者が死後に家庭裁判所へ申し立てる。
【現実の壁】廃除が認められるのは極めて稀!
ここまで読んで「よし、うちはこの制度を使おう」と思った方もいるかもしれません。しかし、FPとして正直な現実をお伝えしなければなりません。
なぜなら、相続権は法律で守られた強力な権利だからです。
「性格が合わない」「親の介護を手伝わない」「愛人と駆け落ちした」といったレベルでは、まず認められません。判例では、「家族共同生活関係を破壊し、修復不可能な程度に至っている」という強い客観的事実が求められます。
「では、どうすればいいのか?」
法的な壁が高いからといって、泣き寝入りする必要はありません。次章では、この「廃除の難しさ」を踏まえた上で、FPだからこそ提案できる「渡さないための現実的な対策」について解説します。
【FPの提案】廃除が無理でも諦めない!「渡さない」ための現実的な対策
前章でお伝えした通り、家庭裁判所に「廃除」を認めてもらうのは至難の業です。
では、親不孝な子供に為す術もなく財産を渡さなければならないのでしょうか?
いいえ、そんなことはありません。
法律の正面突破(廃除)が難しいなら、「遺言」と「生命保険」を組み合わせた金融の実務的な対策で、実質的にその相続人に財産が渡らないようにコントロールすることが可能です。
FPとして推奨する「現実的な2ステップ」をご紹介します。
対策①:公正証書遺言で「相続分ゼロ」を指定する
まずは基本中の基本ですが、遺言書を作成します。
「長男〇〇には財産を相続させない(相続分をゼロとする)」と明記することで、まずは法律上の取り分を封じます。
ただし、配偶者・子・親には「遺留分(いりゅうぶん)」という、最低限保障された取り分があります。遺言書でゼロと指定しても、後から「遺留分侵害額請求」をされると、法定相続分の半分程度のお金は渡さなければならなくなります。
そこで重要になるのが、次のステップです。
対策②:生命保険を活用して「財産の在り処」を変える
これが今回最もお伝えしたいテクニックです。
現金をそのまま持っていると遺産分割の対象になりますが、その一部を「生命保険(死亡保険金)」に変えておくのです。
- 「受取人固有の財産」になる
死亡保険金は、亡くなった人の遺産(相続財産)ではなく、「受取人に指定された人の固有の財産」として扱われます。つまり、原則として遺産分割協議の土俵に乗らないため、渡したくない相手に関与させることなく、渡したい相手(例えば、面倒を見てくれた次男など)に直接現金を渡せます。 - すぐにお金が届く
銀行口座は凍結されると手続きが大変ですが、保険金は受取人が請求すれば数日で現金化できます。もし「渡したくない相手」から遺留分を請求されて泥沼化しても、受取人はこの保険金を使って弁護士費用や解決金を工面できるため、精神的な余裕が生まれます。 - 遺言書よりも確実性が高い
遺言書は書き換えられたり、無効を主張されたりするリスクがありますが、保険契約は保険会社との契約なので、確実に履行されます。
「渡したくない相手」を完全にゼロにすることは、遺留分がある限り難しいのが現実です。
しかし、生命保険を使って「感謝している家族」に多めに資金を移動させておけば、相対的に「渡したくない相手」に渡る実質の割合を減らすことができます。これが、裁判沙汰を避けつつ意思を実現するスマートな方法です。
【超重要】相続権を失っても「代襲相続」は発生する!
相続欠格や廃除を検討する際、絶対に忘れてはならないのが「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」の存在です。
代襲相続とは、本来相続人になるはずだった人(子)が相続権を失った場合、その子供(孫)が代わりに相続権を引き継ぐ制度です。
- 相続欠格の場合: 代襲相続は発生します。
- 廃除の場合: 代襲相続は発生します。
これは、状況によってメリットにもデメリットにもなります。
- 【メリット】「親は許せないが、孫は可愛い」場合
例えば、ドラ息子(子)は廃除したいが、その子供である孫には罪がないので財産を残してあげたい場合、廃除を行えば自動的に孫に権利が移るため、理想的な形になります。 - 【デメリット】「あの一家全員に関わりたくない」場合
息子と絶縁しており、その孫(息子の子供)とも疎遠で、孫にも財産を渡したくない場合、息子を廃除しても孫に権利が移るだけなので、意味がありません。この場合は、前述の「遺言+生命保険」で対策する必要があります。
一度失った相続権は復活できる?「欠格」と「廃除」の取り消し
最後に、もし関係が修復した場合に、一度失った相続権を戻せるのかについて触れておきます。
相続欠格:原則復活できない
欠格は「法律違反へのペナルティ」なので、被相続人が「許す」と言っても、法的な相続権は復活しません。
どうしてもその人に財産を渡したい場合は、「遺言書で財産を遺贈(いぞう)する」と明記することで、財産を渡すことは可能です(欠格者でも受遺者にはなれるという解釈が一般的ですが、専門的な判断が必要なため公正証書遺言が必須です)。
相続廃除:いつでも取り消し可能
廃除は被相続人の「意思」に基づくものなので、いつでも取り消すことができます。
- 生前: 家庭裁判所に「廃除の取消し」を請求する。
- 遺言: 遺言書で「廃除を取り消す」と記載する。
「改心したから許してあげよう」と思えば、すぐに元に戻せるのが廃除の特徴です。
よくある質問とその回答(FAQ)
Q1. 借金を繰り返す子供や、ギャンブル癖のある夫を相続廃除できますか?
借金やギャンブル癖があるという理由だけでは、原則として廃除は認められません。廃除が認められるには「被相続人に対する虐待や重大な侮辱」など、家族関係を破壊するほどの背信行為が必要です。ただし、その借金を親が何度も肩代わりさせられ、結果として親の生活が脅かされるような状況であれば「著しい非行」として認められる可能性はゼロではありませんが、ハードルは非常に高いと考えてください。
Q2. 相続欠格や廃除になった人は、遺留分(最低限の取り分)も請求できなくなりますか?
はい、請求できなくなります。相続欠格に該当した人や、家庭裁判所で廃除が確定した人は、相続人の資格そのものを失います。したがって、本来であれば最低限保障されている「遺留分」を請求する権利(遺留分侵害額請求権)も同時になくなります。これが、単に遺言書で「相続させない」と書く場合との最大の違いであり、非常に強力な法的効果です。
Q3. 遺言書を見つけて勝手に開封してしまいました。相続欠格になりますか?
封印のある遺言書を勝手に開封することは民法違反であり過料の対象になりますが、それだけで直ちに「相続欠格」になるわけではありません。欠格事由に当たるのは、遺言書を「破棄・隠匿・改ざん」した場合です。ただ中身を見ただけで、隠したり書き換えたりする意図がなかった(不当な利益を得る目的ではなかった)場合は、相続権までは失わないというのが一般的な解釈です。ただしトラブルの元ですので絶対にやめましょう。
Q4. 相続廃除されたことは戸籍に残りますか?他人にバレるのでしょうか?
はい、戸籍に残ります。推定相続人の廃除が確定すると、その廃除された人の戸籍の身分事項欄に「推定相続人廃除」という記載がなされます。戸籍謄本を取り寄せれば誰でも見ることができる状態になるため、将来的にその人が結婚したり、何らかの手続きで戸籍を提出したりする際に、相手に知られる可能性は十分にあります。これは一種の社会的制裁としての側面も持っています。
Q5. 特定の子に財産を渡さない一番確実な方法は何ですか?
法的な「廃除」はハードルが高いため、最も現実的で確実なのは「公正証書遺言」と「生命保険」の併用です。まず遺言でその子の相続分をゼロにします。その上で、渡したくない相手の遺留分対策として、手持ちの現金を生命保険に変え、受取人を「渡したい相手」に指定します。こうすることで、遺産分割の対象財産を減らしつつ、特定の人に確実にお金を残すことが可能になります。
まとめ:感情的な対立を法的な解決へ導くために
「相続欠格」と「廃除」は入り口が違う
相続欠格は法律違反(殺人・詐欺・遺言書の偽造など)に対する「自動的なペナルティ」であり、手続きは不要です。一方、廃除は被相続人の「許せない」という感情に基づく「意思表示」であり、家庭裁判所への申し立てが必要です。まずはご自身の状況がどちらに当てはまるか冷静に見極めましょう。
「廃除」のハードルは極めて高いと知る
「性格が合わない」「親不孝だ」という理由だけでは、裁判所は廃除を認めません。虐待や重大な犯罪行為など、家族関係が修復不可能なほど破壊された客観的事実が必要です。制度に期待しすぎて裁判で泥沼化するよりも、別の現実的な手段を模索する方が賢明なケースが多々あります。
「遺言書+生命保険」が現実的な解決策
法的な廃除が難しい場合、FPとしては「公正証書遺言」で意思を示しつつ、「生命保険」を活用することをおすすめします。死亡保険金は遺産分割の対象外となるため、渡したくない相手を法的に回避して、大切な人に資産を届ける強力なツールになります。これが感情と実利を両立させるプロの知恵です。
孫への「代襲相続」を忘れない
欠格や廃除で子供の相続権を奪っても、その子供(孫)がいれば、権利は孫に移ります(代襲相続)。「孫は可愛いから渡したい」なら問題ありませんが、「孫も含めてあの家系とは縁を切りたい」という場合は、廃除だけでは解決しません。この場合もやはり、遺言と保険での対策が必須となります。
一人で悩まず専門家へ相談を
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