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【相続FPが徹底解説】遺留分とは?計算方法・請求手続き・時効を「全財産を愛人に」の実例で完全ガイド

【相続FPが徹底解説】遺留分とは?計算方法・請求手続き・時効を「全財産を愛人に」の実例で完全ガイド

「ウチの親に限って、そんなドロドロの相続争いなんて…」

そう思っていても、心のどこかで「万が一」を考えてしまうこと、ありませんか?

例えば、ドラマやサスペンス劇場でよく見る、「全財産を愛人に遺す」なんていう衝撃的な遺言書。

もし、それが現実になってしまったら…? 「いやいや、さすがにウチの親は大丈夫」と苦笑いしつつも、最近ちょっと気になる“あの人”の存在があったりすると、冷や汗が出ますよね。

脅かすわけではありませんが、相続の世界では「まさか」が本当に起こります。

しかし、ご安心ください。 たとえ、どれだけ不公平な遺言書が出てきたとしても、残された家族には「最後の砦」が用意されています。それが「遺留分(いりゅうぶん)」です。

この記事では、相続の現場で数々の「まさか」を見てきた専門家の視点から、

  • そもそも遺留分って何?
  • 「全財産を愛人に」のケース、実際どうなるの?
  • 私(ウチ)は、いくら貰える権利があるの?
  • どうやって“穏便に”請求するの?
  • タイムリミット(時効)は?
  • FPが教える「揉めないための」生前対策は?

といった、遺留分に関するあらゆる疑問を、実例と表を交えて「日本一わかりやすく」徹底解説します。 これは、家族の絆と財産を守るための「知恵」です。正しい知識を身につけ、万が一の時に備えましょう。

目次

1.【衝撃の実例】もしも「全財産を愛人に遺す」という遺言書が見つかったら?

1-1. 実例ケース:「お世話になった愛人A子に、私の全財産を遺贈する」

まずは、読者の皆さんが最も気になるであろう、衝撃的なケースから見ていきましょう。

【実例ケース】

父(A男さん)が亡くなった。相続人は、妻(B子さん)と長男(C男さん)の2人。

遺産の総額は8,000万円(自宅不動産、預貯金など)。

葬儀も落ち着き、遺品整理をしていると、父の書斎から公正証書遺言が見つかった。

震える手で開くと、そこには信じられない一文が。

「私の全財産8,000万円は、長年私を支えてくれた愛人A子に全て遺贈する」

妻B子さんと長男C男さんは、唖然としました。

「こんな遺言書、認められるの?」「私たちはこれからどうやって生活していけば…」

…いかがでしょうか。「こんなの、まるで昼ドラ!」と思われるかもしれませんが、私たち相続FPの現場では、残念ながらこれに近いご相談は決して珍しくありません。「愛人」でなかったとしても、「特定の子どもに全財産」「お世話になった知人に全財産」といったケースは実際に起こり得ます。

1-2. 遺言書は有効? 結論:有効。だが、すべてが思い通りになるわけではない

まず知っておいていただきたいのは、この遺言書自体は「有効」である可能性が非常に高い、ということです。

日本の法律(民法)では、自分の財産を誰にどのように残すか、遺言によって自由に決める権利(遺言の自由)が認められています。

たとえそれが、家族以外の愛人や知人であったとしても、法律で定められた形式(この場合は公正証書遺言)さえ守っていれば、遺言書の内容は原則として有効となります。

「えっ、じゃあウチは一銭も貰えないの!?」

そう思いますよね。ここで「待った!」をかけるのが、今回のテーマです。

遺言書は有効です。しかし、法律は同時に、残された家族の生活保障や期待を守るための制度も用意しています。

遺言書通りに実行された結果、家族(妻B子さん、長男C男さん)が路頭に迷うことがないよう、最低限の取り分を主張する権利が認められているのです。

1-3. 家族の「最後の砦」=それが「遺留分」です

その「最後の砦」こそが、「遺留分(いりゅうぶん)」です。

遺留分とは、簡単に言えば「残された家族(一定の相続人)のために、法律上最低限保障されている遺産の取り分」のこと。

先ほどのケースで言えば、たとえA男さんが「全財産を愛人に」と遺言したとしても、妻B子さんと長男C男さんには「ちょっと待ってください。私たちの生活もあるので、法律で決まっている最低限の分(遺留分)は渡してください」と請求する権利(遺留分侵害額請求権)があります。

遺言書は故人の最後の意思(ラスト・メッセージ)として尊重されるべきものです。

しかし、そのメッセージが家族の生活基盤を根本から揺るがすものであった場合、法律は「家族の生活」と「故人の意思」のバランスを取ろうとします。

遺留分は、まさにそのバランスを取るための、家族に残された「最後の切り札」であり、「最後の砦」なのです。

まずは、「遺言書があっても、すべてを諦める必要はない」ということを、しっかりと覚えておいてください。

2. 遺留分とは? 誰が・いくら貰える権利なのか【基本のキ】

前の章で、遺留分は「家族の最後の砦」だとお伝えしました。では、具体的に「誰が」「どれくらい」貰える権利なのでしょうか?

ここでは、遺留分の基本の「キ」をしっかり押さえていきましょう。

2-1. ズバリ解説!遺留分は「最低限保障された相続割合」のこと

遺留分とは、シンプルに言うと

「故人(被相続人)が遺言によっても自由に処分できない、一定の相続人に法律上確保された最低限の遺産割合」です。

なぜこんな制度があるのでしょうか?

もし遺言が「絶対」なら、先ほどの「全財産を愛人に」ケースのように、長年連れ添った配偶者や、故人の財産形成に貢献してきたかもしれない子どもが、明日からの生活に困る事態になりかねません。

そこで法律は、

  1. 故人が自由に財産を処分する権利(遺言の自由
  2. 残された家族が生活を維持する権利(相続人の生活保障

この2つのバランスを取るために、「遺言は自由だけど、家族の最低限の生活分(遺留分)だけは残しておいてね」というルールを設けているのです。

これは、故人の意思を尊重しつつも、家族の生活基盤を守るための「セーフティネット」と言えます。

2-2. あなたは対象?「遺留分権利者」の範囲(兄弟姉妹に注意!)

遺留分を請求できる人(=遺留分権利者)は、法律で決まっています。

ズバリ、「配偶者」「子(またはその代襲相続人※)」「直系尊属(父母や祖父母)」だけです。

(※代襲相続人:本来相続人となる子や兄弟姉妹が先に亡くなっている場合、その人の子が代わりに相続すること。遺留分の場合、子の代襲相続人(孫など)は遺留分権利者になりますが、兄弟姉妹の代襲相続人(甥・姪)はなりません。)

ここで非常に重要なポイントがあります。

【超重要】相続人であっても「兄弟姉妹」には遺留分がない!

「法定相続人」には兄弟姉妹(や甥・姪)も含まれますが、「遺留分権利者」には含まれません。

  • OKなケース: 「全財産を愛人に」→ 配偶者・子は遺留分を請求できる。
  • NGなケース: 独身で子がいないAさんが「全財産をボランティア団体に寄付する」と遺言。相続人はAさんの兄だけだった。→ この場合、兄は相続人ですが遺留分権利者ではないため、遺留分を請求できません。遺言書が絶対となります。

なぜなら、遺留分制度の主な目的は「故人と生計を共にしていた家族の生活保障」だからです。配偶者や子に比べ、兄弟姉妹は生計の依存度が低いと一般的に考えられているため、遺留分の対象外とされています。

「自分は対象かな?」と不安な方は、この「兄弟姉妹は対象外」という点をまず押さえておきましょう。

2-3. 法定相続分との違いは?比較表でスッキリ理解

「遺留分」と似た言葉に「法定相続分」があります。この2つ、よく混同されるのですが、まったくの別物です。

  • 法定相続分: 遺言書がない場合に、法律が「この割合で分けるのが一般的でしょう」と定めた目安の割合。
  • 遺留分: 遺言書がある場合に、その内容が不公平だった際に「最低限これだけは主張できる」割合。

違いを一覧表で見てみましょう。

比較項目法定相続分遺留分
使う場面遺言書がない時の遺産分割遺言書が不公平な時に権利を主張する
法的拘束力目安(相続人全員の合意で変更可)権利(主張すれば法的に確保される)
権利者配偶者、子、直系尊属、兄弟姉妹配偶者、子、直系尊属(兄弟姉妹は含まない
割合(目安)相対的に多い(例:配偶者1/2)法定相続分の基本的に1/2(例外あり※)

※例外:直系尊属(父母など)のみが相続人の場合は、法定相続分の1/3となります。

遺留分は、あくまで「最低限の保障」です。

したがって、遺言書がない場合の「法定相続分」よりも、その割合は少なくなります(基本的には法定相続分の半分)。

まずは、「遺言書がない時の目安が法定相続分」「不公平な遺言書への対抗手段が遺留分」と、ざっくり区別しておけばOKです。

3. 【表で簡単】遺留分の計算方法 3ステップ&シミュレーション

「最低限の権利があるのはわかったけど、結局、私は“いくら”貰えるの?」

ここが一番知りたいポイントですよね。

遺留分の計算は、一見複雑に見えますが、3つのステップに分ければ誰でも理解できます。一緒に見ていきましょう。

3-1. ステップ1:遺留分の基礎となる「財産総額」を計算する(生前贈与も含む)

まず、遺留分を計算する「元手」となる財産総額(これを「遺留分を算定するための財産の価額」と言います)を確定させます。

重要なのは、これは「故人が亡くなった時に持っていた財産」とイコールではない、ということです。

なぜなら、もし「亡くなった時の財産」だけで計算すると、「どうせ相続で渡すと遺留分を請求されるから、元気なうちに全部贈与してしまおう」という“遺留分逃れ”ができてしまうからです。

それでは不公平ですよね。

そこで法律は、不公平が出ないよう、以下の財産を「足し戻して」計算するルールにしています。

【根拠・計算方法】

遺留分の基礎となる財産は、以下の式で計算します。

(A)故人が亡くなった時のプラスの財産

+ (B)生前贈与(や遺贈)された財産

- (C)故人が残した債務(借金など)

= 遺留分の基礎となる財産

この中で最も注意が必要なのが(B)の生前贈与です。足し戻すルールは、贈与した相手によって異なります。

  • 相続人(妻や子など)への贈与(特別受益※):原則として、相続開始前10年以内に行われたもの。
    (※特別受益:結婚資金、家を買う資金、事業資金など、特定の相続人だけが受けた特別な利益のこと)

  • 相続人以外(愛人や知人など)への贈与:原則として、相続開始前1年以内に行われたもの。

  • 遺贈(遺言による贈与):時期に関わらず、すべて足し戻します。

特に「相続人への贈与は10年分さかのぼる」という点は、2019年7月の民法改正で明確化された重要ポイントです。「ウチの兄(姉)だけ、昔家を買ってもらって…」というケースは、これに該当する可能性があります。

3-2. ステップ2:「総体的遺留分」(全体の割合)を一覧表で確認

ステップ1で計算した「基礎財産」のうち、遺留分権利者全体で確保される割合(これを「総体的遺留分」と言います)を確認します。

これは法律で決まっています

相続人の組み合わせによって、確保される割合が異なります。以下の表で確認してください。

遺留分権利者の組み合わせ総体的遺留分(基礎財産の…)
直系尊属(父母・祖父母)のみが相続人1/3
上記以外の場合
(例:配偶者のみ、子のみ、配偶者と子、配偶者と直系尊属)
1/2

ほとんどのケース(配偶者や子がいる場合)は「1/2」になると覚えておけば大丈夫です。

権利者が故人の親だけ、という特殊なケースだけ「1/3」になると押さえておきましょう。

3-3. ステップ3:あなたの「個別的遺留分」(貰える割合)を計算する

いよいよ、あなた個人の取り分(個別的遺留分)を計算します。

計算式は以下の通りです。

あなたの個別的遺留分割合 = ステップ2の「総体的遺留分」 × あなたの「法定相続分」

あなたの遺留分額 = ステップ1の「基礎財産」 × 上記の「個別的遺留分割合」

ステップ2で計算した「遺留分権利者全体のパイ」を、2章で説明した「法定相続分」の割合で按分(あんぶん)するイメージです。

3-4. 【実例で計算】「全財産を愛人に」ケースの遺留分侵害額はいくら?

では、1章の「全財産を愛人に」ケースで、妻B子さんと長男C男さんがいくら請求できるのか、具体的に計算してみましょう。

【おさらい】

  • 相続人:妻B子、長男C男
  • 財産:8,000万円(生前贈与・債務は無いものとする)
  • 遺言:「全財産8,000万円を愛人A子に遺贈」
  • 妻B子・長男C男が貰える財産:0円

【ステップ1:基礎財産の計算】

亡くなった時の財産8,000万円 + 生前贈与0円 - 債務0円 = 8,000万円

【ステップ2:総体的遺留分の確認】

相続人は「配偶者(妻B子)と子(長男C男)」です。

上記の表に当てはめると、総体的遺留分は 1/2 となります。

  • 遺留分権利者全体で確保される額:8,000万円 × 1/2 = 4,000万円

【ステップ3:個別的遺留分の計算】

この4,000万円を、妻B子と長男C男で分けます。

法定相続分は、妻B子が1/2、長男C男が1/2です。

  • 妻B子の遺留分額
    (基礎財産 8,000万) × (総体的遺留分 1/2) × (妻の法定相続分 1/2)
    = 2,000万円
  • 長男C男の遺留分額
    (基礎財産 8,000万) × (総体的遺留分 1/2) × (子の法定相続分 1/2)
    = 2,000万円

【結論:遺留分侵害額】

妻B子さんは、本来2,000万円貰える権利があったのに、遺言によって0円しか貰えませんでした。

長男C男さんも同様に、2,000万円貰える権利があったのに0円でした。

したがって、

  • 妻B子さんは、愛人A子さんに対し「2,000万円
  • 長男C男さんは、愛人A子さんに対し「2,000万円」
    合計4,000万円を、「遺留分侵害額」として金銭で支払うよう請求することができます。

4. 【重要】権利を行使する!遺留分侵害額請求の「穏便な」進め方と手続き

計算して「自分がいくら請求できるか」が分かっても、次のハードルは「どうやってそれを伝えるか」ですよね。

「いきなりお金の話なんて…」「喧嘩になったらどうしよう」と不安になるお気持ち、痛いほどわかります。

法律上の権利(遺留分)は、自動的に貰えるものではなく、自ら「請求(意思表示)」しなければ1円も貰えません。

しかし、その進め方には順番とコツがあります。

4-1. いきなり内容証明はNG! まずは「穏便な話し合い」の切り出し方

読者の皆さんに、相続FPとして一番お伝えしたいことです。

法的な権利があるからといって、いきなり弁護士から「内容証明郵便」を送りつけるのは、なるべく避けてください。

内容証明郵便は、非常に強い意思表示であり、受け取った側は「攻撃された」「裁判を起こされるのでは」と一気に警戒し、心を閉ざしてしまいます。

『北風と太陽』の童話と同じで、強い北風(法的主張)は、相手のコート(心)を脱がせるどころか、かえって頑なにしてしまうのです。

特に相手が兄弟姉妹や親戚の場合、それがきっかけで関係が修復不可能になることも少なくありません。

まずは「太陽」=穏便な話し合い(協議)からスタートしましょう。

【穏便な切り出し方の例】

  • タイミング: 相手も相続の疲れが少し落ち着いた頃(四十九日法要の後など)を見計らいます。
  • 切り出し方:
    • 「ちょっと大事な話なんだけど、遺言書のことで少し相談したくて。お互いのために、一度きちんと話しておかない?」
    • 「(もし相手が全財産を受け取った兄弟なら)お兄ちゃん(お姉ちゃん)が、お父さん(お母さん)の面倒を一番見てくれたのは本当に感謝してる。その上で、法律で決まってる『遺留分』のことだけ、ちょっと確認させてもらってもいいかな?」
  • スタンス: 感情的にならず、「権利を主張する」というより「法律上のルールを確認したい」という冷静なスタンスで臨むことが大切です。

4-2. 「言った・言わない」を防ぐ。冷静な意思表示としての「内容証明郵便」

穏便な話し合いを試みても、相手がまともに取り合ってくれない、あるいは話し合い自体を拒否される場合。

ここで初めて「内容証明郵便」の出番を検討します。

内容証明郵便は、「いつ、誰が、どんな内容の意思表示をしたか」を郵便局が公的に証明してくれるサービスです。

これを使う最大の目的は2つあります。

  1. 時効を止めるため(時効の中断・更新):次の5章で詳しく解説しますが、遺留分には「知った時から1年」という短い時効があります。内容証明を送ることで、「私はこの日に確かに権利を主張しました」という法的な証拠を残し、時効の進行をストップさせることができます。

  2. 相手への「本気度」を冷静に伝えるため:感情的な電話やメールと違い、書面で法的な権利(遺留分侵害額請求権を行使します、という旨)を通知することで、相手に「これは単なる愚痴ではなく、法的な請求なのだ」と冷静に認識してもらう効果があります。

この段階では、弁護士に依頼せず、まずは自分で作成して送ることも可能です。ただし、時効が迫っているなど緊急性が高い場合は、最初から専門家に相談しましょう。

4-3. 話し合いが平行線なら「家庭裁判所の調停」

内容証明を送っても相手が無視する、あるいは金額の折り合いがつかない場合、次のステップは「家庭裁判所での調停」です。

「裁判所」と聞くと、いきなり白黒つける「裁判(訴訟)」をイメージするかもしれませんが、「調停」はあくまで「話し合い」の場です。

調停委員という中立的な第三者(専門家や地域の有識者)が間に入り、双方の言い分を聞きながら、法的なルールに則った妥協点・解決策を一緒に探ってくれます。

  • メリット:
    • 直接相手と顔を合わせずに済む(待合室も別々)
    • 感情的なぶつかり合いを避け、冷静に話し合える
    • 費用が訴訟に比べて格段に安い(数千円程度の実費)

  • デメリット:
    • あくまで話し合いなので、相手が合意しなければ不成立に終わる。

相続トラブルの多くは、この調停の場で解決に至っています。

4-4. 最終手段は「訴訟(裁判)」

調停でも合意に至らなかった(不成立となった)場合、最終手段として「訴訟(裁判)」に進むことになります。

調停と違い、訴訟は「話し合い」ではありません。お互いの主張と証拠に基づき、裁判官が「あなたは〇〇円を支払いなさい」という法的な「判決」を下します。

ここまで来ると、弁護士への依頼が必須となり、費用も時間も精神的な負担も大きくなります。

私たちは、ここまで事態がこじれる前に、できれば「4-1(話し合い)」や「4-3(調停)」、あるいは6章で解説する「生前対策」で解決することを強く推奨します。

4-5. 弁護士?税理士?FP? 相談すべき専門家と正しいタイミング

「こんなこと、誰に相談したらいいの?」と迷う方も多いでしょう。専門家にはそれぞれ得意分野があります。

  • 相続FP(私たちのような専門家):
    • タイミング: いつでも。特に「揉める前」「相続発生直後」。
    • 得意分野: 遺産全体の把握、生命保険の活用、揉めないための資産の分け方(対策)、税理士や弁護士への「橋渡し」。
    • 特徴: 法律(弁護士)や税金(税理士)だけでなく、「お金(金融・保険)」と「感情(家族関係)」の両面からアドバイスできるのが強みです。

  • 税理士:
    • タイミング: 相続発生後、相続税がかかりそうな場合。
    • 得意分野: 相続税の計算、申告、節税対策。

  • 弁護士:
    • タイミング: 「既にもう揉めている」「揉める可能性が極めて高い」時。
    • 得意分野: 遺留分侵害額請求(内容証明、調停、訴訟)の代理人、法的な交渉。
    • 特徴: あなたの代理人として、法的に戦ってくれる唯一の専門家です。

【ポイント】

いきなり弁護士事務所のドアを叩くのは勇気がいりますよね。

まずは私たちのような「相続FP」に、「ウチの場合、どう進めるのが一番穏便か」「そもそも弁護士に頼むべきか」といった「進め方の整理」をご相談いただくのが、精神的にも費用的にもベストな第一歩だと考えています。

5. 【最重要】絶対に知っておくべき「時効」の壁|たった1年で権利消滅!?

ここまで遺留分の計算方法や請求の進め方を見てきましたが、実はこの権利には「非常に短いタイムリミット」が設定されています。

どれだけ高額な権利があっても、この期限を1日でも過ぎれば、文字通り「0円」になってしまう…。それが「時効」の壁です。

5-1. タイムリミットは「知った時から1年」

遺留分侵害額請求権の時効は、原則として

遺留分権利者が、①相続の開始(故人が亡くなったこと)及び ②遺留分を侵害する贈与または遺贈があったこと(不公平な遺言書や生前贈与の存在)を“知った時”から1年間」です。

「たった1年!?」と驚かれたかもしれません。

相続手続きは、葬儀、役所への届け出、口座の確認など、ただでさえバタバタします。そんな中で1年というのは、本当にあっという間です。

なぜこんなに短いのか?

それは、財産を受け取った相手(例えば、愛人A子さんや、全財産を貰った特定の兄弟)の立場も考える必要があるからです。

いつまでも「遺留分を請求されるかもしれない」という不安定な状態に置かれるのは酷ですよね。

そこで法律は、権利関係を早期に確定させるため、「知ったなら、1年以内に行動してくださいね」という短い期限を設けているのです。

5-2. 「知った時」とは具体的にいつ?カウント開始のタイミング

この「知った時」というのがクセモノです。

これは、以下の両方の事実を知った時点でカウントがスタートします。

  1. 相続が開始したこと(=故人が亡くなったこと)

  2. 自分の遺留分が侵害されていること(=不公平な遺言書や生前贈与の存在を知り、「あ、私の取り分が最低限以下だ」と認識したこと)

例えば、4月1日に父が亡くなったとします。

  • ケースA: 4月10日の遺品整理で「全財産を愛人に」という遺言書を見つけた。
    → この場合、両方の事実を知った「4月10日」から時効のカウントがスタートします。タイムリミットは翌年の4月9日です。

  • ケースB: 4月1日に父が亡くなったが、遺言書の存在は知らず、相続手続きも進んでいなかった。10ヶ月後の翌年2月1日に、初めて「実はこんな遺言書が…」と見せられた。
    → この場合、カウントがスタートするのは「翌年2月1日」からです。亡くなった日からではありません。

重要なのは、「なんとなく不公平かも」ではなく、「遺言書の内容などを具体的に知った」時点だということです。

5-3. 遺言書の存在を知らなかった場合は?(相続開始から10年の除斥期間)

「じゃあ、遺言書の存在を10年、20年と知らなければ、時効はずっとスタートしないの?」

いいえ、そうではありません。

短い時効(1年)とは別に、「相続開始の時(故人が亡くなった時)から10年」という、絶対的な期限(これを除斥期間と言います)も定められています。

これは、不公平な遺言書の存在を知っていたかどうかに関わらず、故人が亡くなってから10年が経過すれば、遺留分を請求する権利は自動的に消滅する、というルールです。

さすがに10年も経てば、財産関係を確定させましょう、という趣旨です。

【まとめると…】

遺留分の権利が消滅するのは、以下のどちらか早い方です。

  1. 知った時から1年
  2. 亡くなった時から10年

5-4. 時効を止める(中断・更新する)方法

「もうすぐ1年経っちゃう!どうしよう!」

万が一、話し合いが長引いて時効が迫っている場合、時効の進行を止める(法律用語で「時効の完成猶予及び更新」)手段を取る必要があります。

最も確実で簡単な方法は、4章でも触れた「内容証明郵便で『遺留分侵害額請求権を行使する』という意思表示を送る」ことです。

この意思表示(これを「催告」と言います)をすれば、時効の完成が6ヶ月間猶予されます。

その6ヶ月の間に、

  • 家庭裁判所に調停を申し立てる
  • 訴訟(裁判)を起こす

といった法的な手続きを取れば、時効は「更新」(リセット)され、その手続きが終わるまで時効は完成しません。

【FPからのアドバイス】

とはいえ、時効ギリギリのアクションは精神的にも最悪です。

「不公平な遺言書かも」と思ったら、まずは時効を気にするより先に、できるだけ早く(数ヶ月以内に)、私たちのような専門家に「これって遺留分の対象になりますか?」と相談するのが、あなた自身を守る最善手です。

6. 【当サイトの結論】相続FPが教える「遺留分で揉めない」ための生前対策

6-1. なぜ「遺留分」で揉めるのか?根本的な原因はコミュニケーション不足

相続が「争族」になる最大の原因。それは、財産の多寡(多い・少ない)ではありません。

「親子のコミュニケーション不足」、そして遺言書に込められた「想い」が伝わらないことによる「感情のもつれ」です。

「全財産を愛人に」は極端な例ですが、よくあるのは「長男に全財産」「同居してくれた嫁(子の配偶者)に多く残す」といったケースです。

その遺言書を見た他の子どもたちは、どう思うでしょうか?

「なぜだ!」「自分は親不孝だったと責められているのか?」と、金額以上の不公平感や疎外感を抱いてしまいます。

故人には「家業を継いでくれるから」「介護で一番苦労をかけたから」という明確な理由があったとしても、それが遺言書に書かれておらず、生前に言葉で伝えられていなければ、残された家族は知る由もありません。

お金の問題は、やがて「自分の存在価値」の問題にすり替わり、感情的な対立を生んでしまうのです。

6-2. 遺言書に必須!「なぜこの分け方にしたか」想いを伝える付言事項

法的に有効な遺言書(自筆証書遺言や公正証書遺言)を作成することは大前提ですが、私たちFPは、そこに必ず「付言事項(ふげんじこう)」を盛り込むことを強く推奨しています。

付言事項とは、財産分け(法的な効力を持つ部分)の後に書き添える、家族への「最後の手紙」です。

ここには、法的な拘束力は一切ありません。しかし、相続トラブルを防ぐ上で、何よりも強い力を持つことがあります。

【付言事項の記載例】

「長男の太郎には、家業を継いでもらうため、会社の株式と自宅不動産を多く相続させることにした。

次男の次郎、長女の花子には、その分生前に学費や結婚資金で援助してきたつもりだ。これで不公平だとは思わないでほしい。

妻の梅子、今まで本当にありがとう。

お前のおかげで幸せな人生だった。太郎、次郎、花子。お前たちは私の宝だ。

私の死後も、梅子を中心に家族仲良く支え合ってくれることを心から願っている。」

…いかがでしょうか。

もし「長男に全財産」とだけ書かれていたら、次郎さんや花子さんは遺留分を請求したかもしれません。

しかし、この「想い」が添えられているだけで、「父さんはそう考えていたのか…」と納得できる可能性が格段に高まりますよね。

遺留分という法的な「権利」を行使するかどうかは、最後は「感情」が決めるのです。

6-3. 生前贈与は要注意!“特別受益”として遺留分計算に含まれる落とし穴

「それなら、揉めそうな財産は、元気なうちに特定の人(長男や愛人)に贈与してしまえばいいのでは?」

そう考える方もいますが、これは最悪の選択になる可能性があります。

3章の計算ステップで解説した通り、2019年7月の民法改正により、相続人への生前贈与(特別受益)は「10年間」さかのぼって遺留分の基礎財産に足し戻されることになりました。

「長男にだけ事業資金として10年前に3,000万円贈与した」

「愛人に1年以内に1,000万円のマンションを贈与した」

これらは、亡くなった時の財産が0円だったとしても、遺留分計算の対象となり、他の相続人から「あの時の贈与は不公平だ!」と請求される火種を、生前に自ら作っているのと同じことなのです。

良かれと思った生前贈与が、かえって争いを引き起こす典型的なパターンです。

6-4. 結論:生命保険(死亡保険金)が「最強の遺留分対策」になる本当の理由

では、どうすればよかったのか?

故人の「特定の人に財産を残したい」という意思と、他の家族の「遺留分」を両立させる、最も賢く、穏便な方法。

それこそが、私たち保険代理店FPが最も精通している「生命保険(死亡保険金)」の活用です。

なぜ生命保険が「最強」なのか。

それは、死亡保険金が法律(民法)上、「原則として遺留分の計算の基礎となる財産に含まれない」からです。

  • 遺言や生前贈与で渡す財産: 故人の財産(相続財産)
  • 死亡保険金: 受取人固有の財産(相続財産ではない)

法律上、この2つは全くの別物として扱われます。

(※ただし、あまりに不公平な額の場合、例外的に特別受益とみなされる判例もありますが、原則は対象外です)

1章の「全財産8,000万円を愛人に」ケースを思い出してください。

A男さん(故人)は、遺言書で愛人A子さんに8,000万円を「遺贈」したため、妻と子は遺留分(合計4,000万円)を請求できました。

もし、A男さんが私たちFPに生前相談してくれていたら、こうアドバイスしました。

「A男さん、愛人A子さんに財産を残したいお気持ちはわかります。ですが、遺言書ではご家族と100%揉めます。

そうではなく、ご自身の財産8,000万円のうち、4,000万円はご家族のために遺言書を書き、残りの4,000万円で『ご自身が契約者・被保険者、受取人を愛人A子さん』とする生命保険に加入してください」

もしこうしていたら、A男さんの死後、どうなったでしょうか?

  1. 遺言書に基づき、妻と子が4,000万円を相続する。
  2. 生命保険会社から、愛人A子さんに死亡保険金4,000万円が支払われる。
  3. この保険金4,000万円は遺留分の計算対象外のため、妻と子はA子さんに遺留分を請求できません。

結果、A男さんの「家族にも愛人にも残したい」という両方の意思が実現し、誰も法的に揉めることなく、円満(?)に解決できたのです。

6-5. FPだからできる「親子で備える」資産の守り方・分け方プラン

遺留分トラブルは、法律(弁護士)や税金(税理士)の知識だけでは防げません。

「誰に」「いつ」「どの財産(現金、不動産、保険)で」渡すのが一番揉めないのか。

その「資産の分け方・守り方」のプランニングこそ、私たち相続FPの真骨頂です。

  • 遺言書という「法律」
  • 生前贈与や相続税という「税金」
  • そして生命保険という「金融・保険」

これらすべてを横断的に理解し、何より「家族の感情」に配慮しながら、あなたのご家庭にとってベストな「親子での備え」を一緒に考える。

それが、当サイト「親子で備える相続準備ナビ」の役割です。

7. 遺留分に関するよくある質問(FAQ)

ここでは、遺留分に関して読者の皆様からよく寄せられる質問について、Q&A形式で簡潔にお答えします。

Q1. 遺留分の放棄はできますか?

はい、可能です。ただし、相続が始まる前(生前)に放棄するには、家庭裁判所の許可が必要です。相続人同士で交わした「遺留分を放棄する」という念書だけでは法的な効力はありません。相続開始後であれば、ご自身の自由な意思で放棄することができます。

Q2. 生前贈与(特別受益)と遺留分の計算について、もっと詳しく教えてください。

相続人への生前贈与(特別受益)を10年分さかのぼって計算に含めるのは、相続人間の「公平性」を保つためです。故人が亡くなった時の財産だけでなく、生前に受けた利益も考慮することで、「生前に多く貰った人」と「そうでない人」との間の不平等を是正し、より公平な遺留分額を算定することを目的としています。

Q3. 遺留分侵害額請求は、現金(お金)でしか受け取れないのですか?

はい、2019年7月の民法改正により、遺留分侵害額請求は「金銭(お金)」での支払いが原則となりました。以前は、財産そのもの(不動産の一部など)を返す「現物返還」が原則でしたが、手続きが複雑になりがちでした。現在は金銭での解決が基本となり、より実態に即した解決が可能になっています。

Q4. 遺言書が複数見つかった場合、どうなりますか?

法律的に有効な形式(自筆証書や公正証書など)の遺言書が複数見つかった場合、原則として「日付が最も新しい遺言書」が有効となります。それより古い日付の遺言書は、新しい遺言書と内容が矛盾する(抵触する)部分について、撤回されたものとして扱われます。

Q5. 遺留分を請求された側(財産を貰いすぎた側)はどう対応すべきですか?

まず、請求を無視することは絶対にいけません。関係が悪化するだけです。請求された内容(特に遺留分の計算根拠や財産評価)が妥当かどうかを冷静に確認しましょう。可能であれば弁護士やFPなどの専門家に相談し、誠実に話し合い(協議や調停)のテーブルにつくことが、早期解決への一番の近道です。

8. まとめ:遺留分は家族の絆を守るための「知恵」。正しい知識で備えましょう

衝撃的な実例から始まり、遺留分の計算、請求方法、そして最も重要な生前対策まで、長文にお付き合いいただきありがとうございました。

最後に、この記事でお伝えした最も重要なポイントを5つに絞って振り返ります。

まとめ
遺留分は「家族の最後の砦」。不公平な遺言書があっても諦めないで

遺留分とは、遺言書の内容に関わらず、配偶者や子(兄弟姉妹は除く)に法律上保障された最低限の遺産割合です。たとえ「全財産を愛人に」という遺言があっても、法的に金銭を請求する権利(遺留分侵害額請求権)があります。

まとめ
権利を行使するには「穏便な話し合い」から。いきなり内容証明はNG

遺留分は自動で貰えず、自ら請求が必要です。しかし、いきなり法的な手段(内容証明や訴訟)に訴えるのは関係悪化の元。まずは冷静に話し合い、相手が応じない場合に内容証明や調停を検討するのが、円満解決への近道です。

まとめ
【最重要】時効は「知った時から1年」。タイムリミットは非常に短い

この権利は「相続の開始」と「遺留分侵害の事実」の両方を“知った時”から、わずか1年で時効により消滅します。また、知らなくても「相続開始から10年」で消滅します。「おかしいな」と思ったら、迷わず早めに専門家に相談しましょう。

まとめ
生前贈与も計算対象に。相続人へは「10年分」さかのぼる

遺留分の計算は、亡くなった時の財産だけでなく、生前贈与も足し戻します。特に相続人への生前贈与(特別受益)は10年分さかのぼるため、「生前に渡したから大丈夫」という考えはトラブルの火種になるため注意が必要です。

まとめ
最強の対策は「生命保険」の活用。FPは「揉めない」プランを設計します

遺留分トラブルを根本から防ぐには、生前対策が不可欠です。死亡保険金は原則として遺留分の計算対象外となるため、「特定の人に残したい想い」と「家族の権利」を両立できます。こうした「揉めない資産の分け方」こそ、私たち相続FPの専門分野です。

遺留分は、お金で揉めるための制度ではなく、家族の生活を守り、故人の意思とのバランスを取るための「知恵」です。正しい知識を「親子で備える」ことが、未来の家族の絆を守る一番の力になります。

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