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遺言執行者の役割【完全ガイド】報酬相場や選任方法から「家族がなるリスク」まで徹底解説

遺言執行者の役割【完全ガイド】報酬相場や選任方法から「家族がなるリスク」まで徹底解説

「親の遺言書に、私が『遺言執行者』として指名されていた…。これって断れないの?」

「遺言書を作成したいけれど、執行者は家族にお願いしても大丈夫?それともプロに頼むべき?」

相続の準備や発生時に直面する「遺言執行者(いごんしっこうしゃ)」という役割。

名前はいかめしいですが、その実態は故人の想いを現実に変えるための現場監督のような存在です。

しかし、ここ数年の民法改正(2019年施行)により、遺言執行者の権限が強化された一方で、負うべき責任もより明確に法律で定められたことをご存知でしょうか?

「家族だから適当でいいや」という安易な気持ちで引き受けると、後に他の相続人から損害賠償を請求される…といった怖いトラブルに発展する可能性もゼロではありません。

この記事では、遺言執行者の役割や報酬相場はもちろん、「家族がなる場合のリスク」や「法改正によるメリット」など、噛み砕いて解説します。

「自分でやるべきか、プロに任せるべきか」の判断基準が明確になり、安心して手続き進められるようになりますので、ぜひ最後までお付き合いください。

目次

そもそも「遺言執行者」とは?役割と必要性をわかりやすく解説

遺言書が見つかると、どうしても「誰がいくらもらえるか(遺産分割)」にばかり目が行きがちです。

しかし、その遺言書に書かれた内容を「誰が」「どのように」実現するのかという実務の部分は、意外と見落とされがちです。

まずは、遺言執行者の基本的な定義と、2019年の法改正で何が変わったのか、そして「必ず選任しなければならないケース」について、基礎知識を固めておきましょう。

一言でいうと「遺言の内容を確実に実現する責任者」

遺言執行者とは、簡単に言えば「故人に代わって、遺言の内容を実現するために手続きを行う代理人」のことです。

通常、人が亡くなると銀行口座は凍結され、不動産の名義も故人のままになります。これを解除・変更するには、原則として「相続人全員の実印と印鑑証明書」が必要です。

しかし、相続人が遠方に住んでいたり、関係が疎遠だったり、あるいは認知症の方がいたりすると、ハンコを集めるだけで数ヶ月、時には数年かかってしまうことも珍しくありません。

そこで登場するのが遺言執行者です。

遺言執行者が選任されていると、相続人全員のハンコがなくても、遺言執行者一人のハンコと権限で、預金の解約や不動産の名義変更(相続登記)を進めることができます。

いわば、相続手続きにおける「強力なリーダー」であり、残された家族の手間を劇的に減らすことができる存在なのです。

遺言執行者は、相続人の代理人であると同時に、「遺言者の意思」の代理人でもあります。

そのため、たとえ相続人たちが「遺言とは違う分け方をしたい」と言い出しても、遺言執行者は原則として遺言の内容通りに任務を遂行する義務があります。

【重要】2019年法改正で権限強化!「相続させる旨の遺言」でも単独登記が可能に

ここが非常に重要なポイントで、多くの解説記事で詳しく触れられていない部分ですが、2019年7月1日施行の民法改正により、遺言執行者の権限が大幅に強化・明確化されました。

特に大きな変更点は、「特定の財産を、特定の相続人に相続させる」という内容の遺言(特定財産承継遺言)に関する取り扱いです。

  • 改正前(~2019年6月):
    「〇〇(長男)に自宅不動産を相続させる」という遺言の場合、遺言執行者がいても、登記手続きは長男が単独でするものとされ、遺言執行者の権限が及ぶかが曖昧でした。そのため、金融機関や法務局によっては対応が分かれることがあり、スムーズに進まないケースもありました。
  • 改正後(2019年7月~):
    民法第1014条等が改正され、「相続させる」という遺言であっても、遺言執行者が単独で対抗要件(登記など)を備える行為ができると明記されました。

これにより、例えば「不動産を長男に相続させる」という遺言があった場合、もし他の兄弟が勝手に法定相続分で登記を入れて売却しようとしても、遺言執行者が先に(あるいは速やかに)正しい内容で登記を入れることができるようになり、トラブル防止の力が強まりました。

「法律が変わって、遺言執行者がいればより確実に遺産を守れるようになった」と覚えておいてください。

遺言執行者が「絶対に必要なケース」と「いなくてもいいケース」

遺言執行者は必ずしも全てのケースで必要なわけではありません。しかし、法律上「絶対にいないと手続きができない」ケースと、「いたほうが圧倒的に楽な」ケースがあります。

1. 絶対に必要なケース(法律上の義務)

以下の2つの事項が遺言に含まれている場合、これらは相続人単独では手続きができず、遺言執行者だけが手続き可能です。

  • 認知: 婚外子を自分の子供として認知する場合。遺言執行者が就任後、速やかに届出をします。
  • 相続人の廃除(またはその取消し): 虐待などを理由に、特定の相続人の権利を剥奪する場合。遺言執行者が家庭裁判所に申し立てを行います。

2. いたほうが圧倒的にスムーズなケース

  • 相続人が多い、または不仲・疎遠な場合: 全員の印鑑証明を集めるのが困難なため、執行者が必須級です。
  • 不動産や預貯金の口座数が多い場合: 手続きの量が膨大になるため、代表者が一括で行う方が効率的です。
  • 寄付(遺贈)がある場合: 日本赤十字社やNPO団体などに遺産を寄付する場合、執行者がいないと、団体側が相続人全員とやり取りすることになり、手続きが難航します。

3. 特にいなくても困らないケース

  • 相続人が配偶者と子供1人だけで、関係も極めて良好。
  • 財産が自宅と少額の預金のみで、複雑な手続きがない。

このように、家族の状況や財産の中身によって必要性は変わります。ご自身の家族構成を思い浮かべながら、「うちはリーダーが必要かな?」と考えてみてください。

誰にお願いする?「家族」vs「専門家」のメリットとリアルなリスク

「信頼できる長男に任せれば、費用もかからないし安心だ」

そう考える方は非常に多いです。実際に、遺言執行者に家族(推定相続人)を指定すること自体は法律上何の問題もありません。未成年者と破産者以外であれば、誰でもなることができます。

しかし、「なれる」ことと「無事にやり遂げられる」ことは全く別問題です。

ここでは、安易に家族を指名する前に知っておくべき「メリット」と、背中合わせの「リアルなリスク」について掘り下げます。

家族が就任するメリットは「費用節約」だが…

家族を遺言執行者にする最大のメリットは、やはり「コスト」です。

専門家に依頼すれば数十万円〜数百万円の報酬が発生しますが、家族であれば「報酬なし(実費のみ)」や「心付け程度」で済むことがほとんどです。

また、他人が家計の内情に入り込むことに抵抗がある場合、身内だけで完結できる心理的な気楽さもあるでしょう。

「財産は自宅と少しの貯金だけ」「兄弟仲は非常に良い」というシンプルなケースであれば、家族が執行者になっても問題なく完了することも多いです。

【警告】家族が負う「善管注意義務」とは?ミスで損害賠償になる可能性

ここが、本記事で最もお伝えしたい「落とし穴」です。

民法644条には、受任者の義務として「善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ)」が定められています。

これは、「管理者として、一般的に要求されるレベルの注意を払って仕事をしなければならない」という義務のことです。

恐ろしいのは、これが「たとえ無報酬の家族であっても適用される」という点です。

「タダでやってあげているんだから、多少のミスは許してよ」という言い訳は、法律の世界では通用しません。

もし、家族である執行者が以下のようなミスをした場合、他の相続人から損害賠償請求をされるリスクがあります。

⚠️ 家族執行者がやりがちな「義務違反」リスク

  • 手続きの放置・遅延: 忙しくて数ヶ月放置していた間に株価が暴落し、遺産が目減りした。
  • 財産調査の漏れ: 隠し財産を見落とし、後から多額の追徴課税(税金のペナルティ)が発生した。
  • 不公平な情報開示: 特定の兄弟にだけ情報を伝え、他の兄弟に経過報告をしなかった(民法改正で報告義務が厳格化されました)。

「仲の良い兄弟だったのに、手続きの遅れが原因で『お前のせいで損をした!』と亀裂が入ってしまった…」

こうした悲しい事例を防ぐためにも、家族を指名する場合は「本当にその人に事務処理能力と時間的余裕があるか?」を冷静に見極める必要があります。

専門家(弁護士・司法書士・行政書士)の選び方と信託銀行との違い

「やはり家族には荷が重いかもしれない」と感じた場合、専門家への依頼を検討することになります。

ただし、専門家なら誰でも同じではありません。それぞれの得意分野に合わせて選ぶのが「賢い相続」のコツです。

1. 弁護士:揉める可能性があるなら「最強の盾」

  • 特徴: 唯一、紛争性のある案件(代理人として交渉)を扱えます。
  • おすすめ: 「兄弟仲が悪い」「遺言の内容に不満が出そう」「遺留分を請求されそう」という場合。法的トラブルの防波堤になってくれます。

2. 司法書士:不動産がメインなら「登記のプロ」

  • 特徴: 不動産の名義変更(登記)の専門家です。
  • おすすめ: 「揉める心配はないが、自宅やアパートなど不動産の手続きが面倒」という場合。弁護士より費用が抑えられる傾向にあります。

3. 行政書士:手続き代行の「街の法律家」

  • 特徴: 車の名義変更や許認可に強く、遺言書作成のサポートも多いです。
  • おすすめ: 紛争性がなく、預貯金解約などの事務手続きをスムーズに進めたい場合。

4. 信託銀行:安心感はあるが「コスト」に注意

  • 特徴: 「遺言信託」という商品として、遺言作成から保管、執行までパッケージで提供しています。
  • 注意点: 安心感は抜群ですが、最低報酬額(ミニマムチャージ)が100万円以上など高額に設定されていることが多いです。また、実際の登記手続きや税務申告は、提携している司法書士や税理士に外注するため、別途費用がかかるケースもあります。

【時系列】遺言執行者の具体的な業務フロー(就任から完了まで)

「遺言執行者に指名された!」と分かった瞬間から、時計の針は動き出します。

いつ、何をすればいいのか? 全体のロードマップが見えていれば、焦ることはありません。

業務は大きく分けて5つのステップで進みます。ここでは、最もスタンダードな流れを見ていきましょう。

ステップ1:就任の承諾(または拒絶)と相続人全員への通知義務

遺言書の中で指定されていても、実は「拒絶」することも可能です。

仕事が忙しすぎたり、病気療養中であったりして任務遂行が難しい場合は、就任を拒否できます。

ただし、一度「やります(就任承諾)」と言ってしまうと、正当な事由がない限り辞めることが難しくなるため、最初の決断は慎重に行う必要があります。

就任を決めたら、ただちに「就任通知書」を作成し、相続人全員(受遺者や包括受遺者を含む)に送付します。

※ここが法改正ポイント!

2019年の改正により、遺言執行者は就任後、遅滞なく遺言の内容を相続人全員に通知する義務があることが明文化されました(民法1007条2項)。

「遺言書はこの人たちにだけ関係あるから」と勝手に判断して一部の人にだけ知らせるのは法律違反です。必ず「全員」に知らせましょう。

ステップ2:財産調査と「財産目録」の作成・交付【ここが一番大変!】

就任して最初に行う実務にして、最大の難関がこの「財産調査」です。

故人がエンディングノートなどに財産一覧を完璧に残してくれていれば良いのですが、そうでない場合は、家のタンス、通帳の履歴、郵便物などを手掛かりに、故人の資産を洗い出さなければなりません。

調査が終わったら、「財産目録」を作成し、これを相続人全員に交付しなければなりません(民法1011条)。

  • 何を書くの? 不動産(所在・地番)、預貯金(銀行名・支店・口座番号・残高)、有価証券、借金(負債)など。
  • なぜ重要なの? この目録が遺産分割や遺留分計算の基礎となるため、ここで記載漏れがあると後々トラブルになります。

ステップ3:金融機関の解約・払戻しと法務局での登記申請

財産が確定したら、いよいよ「動かす」作業に入ります。

  • 預貯金・有価証券:
    銀行や証券会社に、遺言書、検認済証明書(公正証書遺言以外の場合)、執行者の印鑑証明書などを提出し、解約または名義変更を行います。執行者の専用口座に一度全額を集約し、そこから各相続人へ振り込む方法が一般的でトラブルが少ないです。
  • 不動産:
    法務局で「相続登記」の申請を行います。前述の通り、法改正により「相続させる」旨の遺言でも執行者が単独で申請できるようになり、スムーズになりました。

ステップ4:遺贈の履行・認知・相続人の廃除など特殊業務

遺言の内容によっては、親族以外への寄付(遺贈)や、子供の認知などが含まれている場合があります。

特に「遺贈」がある場合、受遺者(寄付先など)への引渡し手続きも執行者の重要な任務です。不動産の権利証(登記識別情報)を渡したり、所有権移転の手続きを行ったりします。

ステップ5:業務完了報告と費用の精算・報酬の受取

すべての手続きが終わったら、最後の締めくくりです。

  1. 完了報告: 「これだけの財産を、このように配分し、すべての手続きを完了しました」という「業務完了報告書」を作成し、領収書などのコピーや計算書を添えて、再び相続人全員に送付します。
  2. 引き渡し: 通帳や権利証など、預かっていた重要書類を相続人に返還します。
  3. 報酬の受取: 遺言や契約で定められた報酬がある場合は、相続財産から(あるいは相続人から)受け取ります。

ここまでやって、ようやく遺言執行者の任務は完了です。期間にして早くて数ヶ月、長いと1年以上かかる長丁場であることを覚悟しておきましょう。

気になるお金の話!遺言執行者の「報酬」相場はどれくらい?

遺言執行者の業務は、これまで解説した通り非常に責任が重く、手間のかかるものです。当然、それに見合った「報酬(付言事項)」が発生することが一般的です。

報酬の額は、「誰がなるか」「遺言にどう書かれているか」で大きく変わります。

遺言書に記載がある場合とない場合の違い

まず、遺言書の中に「遺言執行者の報酬は金〇〇万円とする」や「遺産総額の〇%とする」という記載があれば、原則としてその金額が優先されます。

もし遺言書に記載がない場合、あるいは「報酬は定めない」とある場合はどうなるのでしょうか?

  • 家族の場合: 一般的には「無報酬」で引き受けるケースが多いです。ただし、親族間で話し合って「手間賃として〇〇万円渡す」と決めることは自由です。
  • 家庭裁判所で決める場合: 遺言に記載がなく、話し合いもまとまらない場合、遺言執行者は家庭裁判所に「報酬付与の申立て」を行い、裁判官に適切な報酬額を決めてもらうことができます。

専門家に依頼した場合の相場(財産額の1〜3%の真実)

弁護士、司法書士、信託銀行などのプロに依頼した場合の相場は、おおむね以下の通りです。

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依頼先報酬の目安(相場)特徴・注意点
弁護士遺産総額の 1.0%〜3.0%紛争対応を含む場合は高くなる傾向。最低報酬額(30〜50万円程度)の設定あり。
司法書士遺産総額の 1.0%〜2.0%不動産登記がメインの場合、少し割安になるケースも。別途実費が必要。
行政書士遺産総額の 1.0%前後比較的安価だが、登記や税務は提携先への別料金が発生することが多い。
信託銀行遺産総額の 1.5%〜2.0%最低報酬額が100万円〜と高額設定されていることが多く、少額遺産だと割高になりがち。

知っておきたい「最低報酬」の罠

「1%なら安いじゃん!」と思っても要注意です。多くの事務所や銀行では「最低報酬額(ミニマムチャージ)」を設定しています。

例えば、「財産額の1%、ただし最低報酬は33万円(税込)」という場合、遺産が500万円しかなければ、実質的な手数料率は約6.6%にも跳ね上がります。契約前に必ず見積もりを取りましょう。

家族が執行者になった場合、報酬は受け取れる?

家族が執行者になった場合も、遺言書に記載があれば堂々と報酬を受け取れます。

ただし、注意が必要なのは税金です。

  • 遺産として受け取る場合: 相続人が受け取る財産の一部とみなされ、相続税の対象になります。
  • 報酬として受け取る場合: 遺言執行という「労働の対価」として受け取る場合、受け取った人には雑所得として所得税がかかる可能性があります。

家族間で「お兄ちゃん、大変だったからこれ受け取ってよ」と渡すお金が、税務署からどう見られるか(贈与なのか報酬なのか)は微妙な問題ですので、高額になる場合は税理士への確認をおすすめします。

【重要】遺言執行者の選任・辞任・解任に関する厳しいルール

「安請け合いしてしまったけれど、やっぱり面倒だから辞めたい」

「兄が遺言執行者になったけれど、全然動いてくれないからクビにしたい」

こうしたトラブルは後を絶ちません。しかし、遺言執行者の地位は法律で守られていると同時に、厳しく縛られてもいます。

遺言で指定されたら「拒絶」はできるが、「辞任」は難しい?

ここを勘違いしている方が非常に多いのですが、「就任前」と「就任後」では、辞めるハードルが天と地ほど違います。

  1. 就任の拒絶(スタート前):
    遺言で指名されていても、「私には無理です」と相続人に伝えて断る(拒絶する)ことは自由です。特別な手続きも要りません。
  2. 辞任(スタート後):
    一度「やります」と承諾して就任してしまった後に辞めるには、「正当な事由」(病気、長期出張、高齢など)が必要であり、かつ家庭裁判所の許可を得なければなりません。
    「思ったより大変だったから」「他の相続人に文句を言われて嫌になったから」という個人的な理由では、簡単には辞めさせてくれないのです。

だからこそ、導入文でもお伝えした通り、「安易な引き受けは禁物」なのです。

遺言に指定がない場合に「選任申立」をする手順

遺言書に「遺言執行者を指定する」という文言がない場合、あるいは指定された人が先に亡くなっていた場合はどうすればよいでしょうか?

遺言の内容を実現するために執行者が必要であれば、利害関係人(相続人など)は家庭裁判所に「遺言執行者選任の申立」を行うことができます。

この際、候補者(弁護士や信頼できる親族)を推薦することも可能です。家裁が「この人なら適任だ」と認めれば、その人が選任されます。

任務を怠った執行者を「解任」するための要件

逆に、遺言執行者が任務をサボったり、一部の相続人に有利な取り計らいをするなど不正を働いた場合は、家庭裁判所に申し立てて「解任」することができます。

  • 解任事由の例:
    • 正当な理由なく、いつまで経っても手続きを始めない。
    • 財産目録を作成・交付しない。
    • 遺産を勝手に使い込んだ(横領)。

「なんとなく気に入らない」程度では解任できませんが、明らかな義務違反がある場合は、証拠(督促したメールや内容証明など)を揃えて家裁に相談しましょう。

よくある質問とその回答

Q1. 遺言執行者は未成年や破産者でもなれますか?

未成年者と破産者は、法律上、遺言執行者になることができません。未成年者は法律行為を行う能力が制限されており、破産者は経済的な信用を失っているため、他人の財産を管理する任務には不適格とされるためです。遺言書で指名されていたとしても、その指名は無効となります。もし指名された人が就任前に破産してしまった場合は、家庭裁判所に新たな選任を申し立てる必要があります。

Q2. 遺言執行者がいるのに、相続人が勝手に不動産を売却したらどうなりますか?

2019年の法改正により、遺言執行者がいる場合、相続人が勝手に遺産を処分する行為は「無効」であることが明確に定められました。以前は第三者が知らずに購入した場合などの解釈が分かれていましたが、現在は遺言執行者の権限が強力に保護されています。もし相続人の一人が勝手に売却契約を結んでも、法務局での登記手続きは却下される可能性が高く、最終的には契約自体が白紙に戻ることになります。

Q3. 遺言執行者への報酬は、相続税の控除対象になりますか?

結論から言うと、遺言執行者への報酬は、相続税を計算する際の「債務控除」の対象にはなりません。これは、遺言執行費用が「被相続人(故人)の債務」ではなく、「相続人が遺産を取得するためにかかった費用」とみなされるためです。葬式費用は控除できますが、弁護士や信託銀行に支払った執行報酬は相続財産から差し引くことができず、その分相続税が高くなる点には注意が必要です。

Q4. 借金が多い場合、遺言執行者は借金も返済する義務がありますか?

遺言執行者の義務は、あくまで「遺言の内容を実現すること」にあります。遺言書に「借金を返済せよ」と書かれていれば行いますが、通常、借金の返済(債務の弁済)は遺言執行者の固有の職務には含まれません。ただし、相続財産を管理する立場上、債権者から請求が来ることがあります。その場合は相続人全員と協議し、誰がどのように負担するかを明確にする調整役として動くのが一般的です。

Q5. 遺言執行者を複数人指定することは可能ですか?

はい、複数人の指定も可能です。例えば「不動産の手続きは司法書士のAさん、預金の手続きは長男のBさん」というように役割分担をしたり、単に「AさんとBさんの二人」と指定することもできます。特段の定めがない場合、任務の執行は過半数で決することになりますが、意思決定が複雑になるリスクもあります。複数指定する場合は、それぞれの担当業務を遺言書内で明確に分けておくことを強くおすすめします。

まとめ

まとめ
1. 遺言執行者は「故人の意思」を実現する強力な現場監督

遺言執行者は、亡くなった方の最後の想いを確実に形にするための代理人です。特に2019年の民法改正以降、その権限は明確化され、強化されました。相続人が多い場合や疎遠な場合でも、執行者がいれば単独で預金解約や登記申請が可能となり、手続きのスピードと確実性が格段に向上します。いるといないとでは大違いの存在です。

まとめ
2. 家族が就任する場合は「法的リスク」と「覚悟」が必要

費用節約のために家族を指名することは可能ですが、無報酬であっても「善管注意義務」という重い法的責任を負います。手続きのミスや遅延、報告漏れがあれば、最悪の場合、親族から損害賠償を請求される恐れもあります。「家族だから大丈夫」という甘えは通用しないため、事務処理能力と公平性が求められます。

まとめ
3. 最も大変な業務は「財産調査」と「目録作成」

就任後に待ち受ける最初の難関が、故人の全財産を洗い出す調査作業です。タンス預金からネット銀行、借金に至るまで全てを正確に把握し、「財産目録」を作成して相続人全員に交付しなければなりません。この目録に漏れがあると後の遺産分割に影響するため、非常に神経を使う作業となります。

まとめ
4. 辞任は「家庭裁判所の許可」が必要でハードルが高い

就任前であれば自由に拒絶できますが、一度「やります」と承諾してしまった後の辞任は簡単ではありません。病気などの正当な事由があり、かつ家庭裁判所の許可を得なければ辞められないのがルールです。「面倒になったから」という理由では許されないため、引き受ける前の慎重な判断が不可欠です。

まとめ
5. 迷ったら「専門家」への依頼がトラブル防止の近道

相続人間で揉める可能性がある場合や、手続きの時間がない場合は、弁護士や司法書士などの専門家を執行者に選ぶのが賢明です。報酬はかかりますが、それは「安心」と「時間」を買うコストと言えます。特に弁護士並みの知識を持つFPとしては、将来の親族間トラブルを防ぐ保険として、プロの活用を強く推奨します。

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